「流動食」が「粉ミルク」を逆転
──2017年夏、日本初のスナック菓子である「カール」の東日本での販売終了が話題になるなど、不採算部門からの撤退も行なっている。
川村:メディアには大きく取り上げられましたが、決断に迷いはありませんでした。
スナック菓子ではカルビーさんの『ポテトチップス』などジャガイモ原料の商品が圧倒的なシェアで、「カール」のようなトウモロコシ原料の商品は長く低迷が続いていました。
勝負がついているジャンルにこだわるよりも、お菓子では我が社で最も競争力があるチョコレート分野に集中することが重要だと考えました。
ただ「カール」を愛してくださった古くからのファンの方々もたくさんいらっしゃる。そのため、愛媛県の1工場のみ残し、西日本エリアで販売を継続しています。
商品の選択と集中を進めていく際には、とにかく撤退、撤収から手をつけることが大事だと思っています。
商品数が減ると一時的に売り上げが減ってしまうのは確かです。しかし「新しい商品が育つまでは……」と無理して続けていては、将来性があって本当に力を入れるべき分野に人材や費用を投入できず、ますます会社は停滞してしまいます。
──では、将来性を見出している分野は?
川村:ひとつは「メイバランス」シリーズに代表される「高齢者用流動食」の分野です。当社がこのジャンルに進出したのは1995年で、当時は粉ミルク商品の10分の1ほどの売り上げしかありませんでした。それが25年経った現在は少子高齢化の影響もあり、粉ミルクの売り上げを逆転しています。
今後、高齢者の栄養補給はさらに大きなテーマになっていくだけに、非常に重要な商品だと考えています。
また、当社の医薬品事業の治療薬やワクチンも今後さらに伸びると期待しています。
明治には、創業時から貫く「栄養報国」という精神があります。栄養事業を通じて社会に貢献していくという考え方です。
あまり流行に左右されず、消費者の方々にとって本当に必要なものを提供していきたいですね。
【プロフィール】
川村和夫(かわむら・かずお)/1953年、宮城県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、1976年旧・明治乳業(現・明治)入社。2007年同社取締役。2012年に代表取締役社長。2018年より明治ホールディングス代表取締役社長。
【聞き手】
河野圭祐(かわの・けいすけ)/1963年、静岡県生まれ。経済誌編集長を経て、2018年4月よりフリーとして活動。流通、食品、ホテル、不動産など幅広く取材。
撮影/山崎力夫
※週刊ポスト2020年12月11日号