遺産を巡る親族間の“争続”は、親と同居するきょうだいが原因で巻き起こるケースが少なくない。『週刊ポストGOLD もめない相続』より、生前贈与を利用して、きょうだいのうちひとりが莫大な遺産を独り占めしようとした手口を紹介する。
世代をまたいでの財産の継承には、死後に遺言書や遺産分割協議をもとに行なう「相続」と、生前から計画的に財産を渡していく「贈与」の大きく分けて2つがある。贈与税のほうが相続税より税率は高くなるが、特定の親族に渡せるうえ、非課税枠を利用するなどして効率的に相続財産を減らせる可能性があるため、使い方によっては得になる制度だ。ただし、贈与が特定の家族に偏り過ぎてしまって、もめる原因となることも多い。
贈与を巡るトラブルには、様々な実例があるという。夢相続代表取締役で相続実務士の曽根惠子氏が語る。
「多くの不動産を持つ母が亡くなり(父は既に故人)、長女と長男と次女が相続人という家族の長男から相談を受けたのですが、母と同居する次女が時価約4億円もの母の不動産をすべて生前に贈与させていたそうです。大きな贈与税がかかっても、財産を独り占めしたかったのでしょう」
次女はまだ独身で、母親と同居しながら財産の管理をしていた。長男は母から不動産の一部が相続できると思っていたが、次女からは事前に何も説明がなかったというから、その手口を知った時の驚きは想像を超えたものだったようだ。前出の曽根氏が指摘する。
「贈与税の方が相続税より税率は高い。この場合、1億円以上の贈与税を払っているのではないでしょうか」
生前贈与が偏り過ぎている場合、生前に贈与された分を「特別受益」として遺産に組み込んだ上で、「遺留分侵害額請求」をすれば法定相続分の財産の2分の1までを請求できる。しかし、このケースでは次女の振る舞いに嫌気がさした他のきょうだいが連絡を絶ち、相続を機に家族がバラバラになってしまったという。こうしたドロ沼の“争続”を防ぐ術はないのか。
「親は最も近くにいる子供の意見を聞いてしまうもの。兄弟や姉妹が誰かの変な動きにいち早く気付くことが重要です。それには、日ごろのコミュニケーションが大切です」(前出・曽根氏)
※週刊ポスト2021年1月1日号増刊『週刊ポストGOLD もめない相続』より