その場合、かわりに財産管理をするのが成年後見人だ。親の認識力があるうちに、家族の誰かを後見人に指名しておくこともできる(任意後見)。
子が親の後見人になればお金を自由に動かす裁量権があるように思われがちだが、実情は全く違う。相続問題に詳しいまこと法律事務所の北村真一・弁護士が語る。
「成年後見は財産の横領を防ぐための制度なので、後見人になると大変です。毎月、親の財産を何にいくら使ったか裁判所に報告しなければならない。また、後見人になった子は事実上、親の面倒をみることになる。週1回訪問して食事の世話をしたり、入浴させても、その分は遺産分与であまり評価されない。2年間、週1回入浴の世話をし続けて裁判で主張しても相続額に100万円ほどの上乗せが認められるくらい。
任意後見を選ぶ場合は、家族会議でその大変さを知ってもらい、あらかじめ後見人分の遺産上乗せなどを決めておくことを勧めます」
成年後見制度以外にも、親が自分の介護などに備え、使途を決めて財産を家族の1人に信託する「家族信託」もある。
「親の介護や生活費に親の預金を使いたいという程度であれば、あらかじめ親の口座の代理人カードをつくっておいて、介護する子がカードで必要な金額を下ろして使う方法が最も簡単な方法です。ただし、出納帳をつけて他の兄弟姉妹に使途を説明できるようにすることが大切です」(北村氏)
また、親の認知能力に衰えを感じたら、要介護認定の申請を検討するタイミングだ。親が介護認定を受けると、家族の1人を「介護のキーパーソン」(介護責任者)に選ぶ必要がある。ケアマネジャーやヘルパーはその責任者と介護方針を相談することになる。
親が高齢になるほど、家族会議で決めておかなければならないことは多い。そうしたことをあらかじめ話し合っておけば、介護の大変さを家族で共有でき、親を安心させることができる。
親が認知症になる前にしておく手続き5
【1】財産目録をつくる
【2】「成年後見人」を検討する
【3】「家族信託」を検討する
【4】銀行の代理人カードを作成する
【5】介護保険の認定を検討する
※週刊ポスト2021年1月1・8日号