ネット通販、デジタル配信、リモートワーク……コロナによって多くの人が生活にITを取り入れることになった。25年前からこの未来を予見していたのが、かつて経済大国ニッポンの象徴だったソニーで「名経営者」と呼ばれた出井伸之氏である。83歳にして現役経営者としてベンチャー企業を育成・支援している彼の目に、2021年の日本経済の行方はどう映っているのか。
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いまだに日本は戦後復興を果たした製造業神話から抜け出せないでいるのではないか。新型コロナで苦しむ日本経済を見ていてそう実感します。
ソニーの社長に就任する2年前、1993年のある日のことを私は忘れられません。それは、米国でクリントン政権が誕生し、副大統領だったアル・ゴアが米ロサンゼルスで「情報スーパーハイウェイ構想」を発表したその日だったのです。この構想は全米規模で高速デジタル通信網を整備し、インターネットを国のインフラにしようという壮大な計画でした。
この計画が発表されたまさにその日、私はソニーの社員数名とその会場にいました。
ゴアが「この中でインターネットをやっているのは何人いる?」なんて問いかけて、会場の20%もいたかな? 手をあげたのは。米国でもまだそんな時代でした。
しかし、ゴアの発表を聞いて、本当に驚きました。インターネットはいわば巨大な隕石でした。隕石は恐竜を絶滅させたでしょう? 思わず一緒にいた社員たちに言ったもんです。
「(ソニーも)変化しないと恐竜みたいに死んじゃうぞ」
ゴアはこの時に2つのことを言っていました。1つはeコマースの税金的な優遇、そして金融企業を優遇し世界的な金融産業を自由化すると。このゴアの発言の通り、インターネットの普及と相俟って推進したグローバル化によって、米国は未曾有の繁栄を謳歌しました。
そして、私は社長就任を告げられたのです。忘れもしない1995年1月17日、阪神・淡路大震災の当日でした。当時、ソニーは成長するエンジンを持たず、しかも1ドル=79円という超円高。ちょっと前まで、「こんな時代に社長になる人は本当に可哀想だ」なんて、まったく他人事のように言っていたほどでした(笑)。それが一転、私が社長をやることになっちゃった。