親から「結婚したら家くらい買いなさい」と言われた、という話をよく耳にする。親世代にとっては「マイホームを持ってこそ一人前」であり、「持ち家は資産」という考え方がいまだに根強い。一方で、人口減少や少子高齢化が急速に進む今、地方に限らず都心部でも空き家が増え、持ち家が必ずしも資産にはならない現実もある。
「持ち家なら安心」のマイホーム神話は果たしてこの先も通用するのか。新刊『「貯金ゼロ、知識ゼロ、節約ゼロ」でも大丈夫!“もしも”に備える新しいお金の使い方』を上梓したファイナンシャルプランナーの清水香氏が解説する。
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総務省の「住宅・土地統計調査」によると、日本の持ち家率は、過去40年間にわたって6割前後で推移している。ただし、これは日本全体の平均値で、地域差や世代差が大きいのが実情。地域別では、もっとも持ち家率が高いのは秋田県の77.3%、富山県と山形県が僅差で続く。反対に、もっとも持ち家率が低いのは沖縄県で44.4%、次いで東京都が45.0%と、この2都県は賃貸世帯が半数以上を占めている。どこに住むかによって、住まい方のスタンダードは変わる。
世代別では、65歳以上の持ち家率はなんと約8割。約30年前は誰もが家を買う時代であり、働き盛りだった世代の多くが家を買った。その背景にあったのは、賃金も土地も株式も、すべて右肩上がりの経済環境。借りすぎた住宅ローンは退職金で完済できたし、返せなくても住宅を売ればローンは清算できたのだ。
それに、近年のような大規模災害は少なく、突然の感染症パンデミックで経済活動が停止するということもなかった。住宅という大きな買い物を多くの人ができたのは、社会や経済環境が長期にわたり安定していたからこそ。背伸びをした住宅購入も、裏目に出にくい時代だった。
一方で、30代から50代の持ち家率は、この30年で減少を続けている。現在、30代の持ち家率は約35%で、1988年の約47%から大幅減。単身者が増えていることも一因だが、すでにかつての「持ち家主義」から解放された自由な考えをもつ人が増えてきているようだ。
実際、国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査」によると、「家や土地を所有したいか」という問いに、「賃貸住宅で構わない」という人の割合が年々増えていることがわかる。