新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発出されたことで、多くの人々が外出を自粛。利用者が激減したタクシー業界からは、悲痛の声があがっている。売り上げは激減する一方で、政府や自治体からの協力金もなく、苦境に立たされるばかりのタクシー業界。『女性セブン』の名物記者“オバ記者”こと野原広子氏がレポートする。
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このところ不要不急の外出は控えているので、バイト以外ほとんど家にいるが、先日はモデルの仕事で外出した。そしたら撮影で使う荷物が多くて、とても自力で運べるものではない。こんなときこそタクシーだ。
行き先を告げたら、「いやぁ、助かりますよ」と運転手さん、いきなり笑顔で後ろを振り向くではないの。いかにも好々爺といった、人のよさそうな目がマスクからのぞく。「やっぱり緊急事態宣言で、大変ですか?」と聞いたら、「まあ、見てくださいよ」と片手で何か差し出した。見れば、その日の客の乗車金額がメモされたボードよ。それを私に見せながら、「今日、1000円を超えるの、お客さんが初めてなんですよ」と、こちらも売り上げ減の話だ。
去年2月に都内タクシーの最低料金が440円になって近距離利用がしやすくなったというけど、ドライバーにしてみれば、小銭を積み上げるようで稼ぎにならないのかも。
「それでもいいんです、お客さんさえいれば。緊急事態宣言が出てから、夜にお客さんがいなくなるのは覚悟していたけど……見てくださいよ。今日は金曜日ですよ。まだ5時半だというのに、歩いている人すらいないでしょ」
タクシーは都内・千代田区の靖国通りを走っている。車窓からあらためて外を見て驚いた。いつもなら、帰宅途中のサラリーマンあり、デートとおぼしきカップルあり、黙々とジョギングをする夜間ランナーありで結構にぎやかな大通りなのに、いまは人も車もスカスカ。見える路面が大きいんだわ。
「ホント、お客さんだから言うけど、いまの売り上げなんか、ひどすぎて笑っちゃいますよ」
タクシードライバーによって勤務時間帯はいろいろある。9時~17時の明るい時間帯にハンドルを握る人もいれば、朝10時から翌朝6時まで(休憩をはさむにしても)20時間近くの長丁場になるドライバーもいる。もっぱら深夜だけ走っている人もいる。で、この運転手さんは、昼夜20時間働いて翌日休み、というサイクルなのだそう。
「それで売り上げが2万円いかないんですよ。うちの会社は、ドライバーの取り分は半分だから、20時間働いて1万円……ってやってられないでしょ!」
さらに、彼の会社は緊急事態宣言で1週間の全車休業を決めたそう。その間、ドライバーの補償は「それまでの手取りの2~3割とか言ってました。ま、ゼロよりマシってレベルですよね」と語る。