60歳でリタイアするのは過去の話。60代になっても働き続けるのが当たり前の時代となっている。もちろん同じ会社に長く務めるケースもあるが、新たなステージを求めて「転職(再就職)」する場合は、前職でのキャリアが重要になる。
中高年向けの人材サービスを展開する「シニアジョブ」の代表・中島康恵氏の解説。
「営業職でトップセールスを誇る人でも、営業畑には代わりの人材がたくさんいるので、企業によっては容赦なく60歳以降は他の部署に配属するということもあります。もしも大口の顧客を持っているなどの強みがあるなら、他社への転職を勧めています」
転職先の新たな会社では、実務能力と「プラスアルファ」があれば好条件で迎えられやすい。
「財務などの専門職を究めた人には、コンサルタント会社からの需要が高い。ただし、“客を取ってこられる”ことが条件になるケースも少なくありません」(中島氏)
ステップアップを狙う場合は、経験に合わせてハードルが上がることを肝に銘じたい。
それでは、大口の顧客を持っているなど、誰もが認めるような強みがない場合、どんな会社を探せばいいのか。
人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「中小企業や社歴が浅い会社なら、ベテランとしての経験を生かしやすい」と指摘する。
「たとえば、規模が急拡大したベンチャーは、組織としての仕組みが成長に追いついておらず、人事や総務のスペシャリストを欲しがるケースが多い。また、人材がダブつく大企業と異なり、代替社員が少ない中小企業からは、なるべく長く働いてほしいという希望が結構あります」(溝上氏)
また、考え方によっては「定年がない」、あるいは「70歳まで正社員として働ける」会社に転職するのも勝ち組と言える。その場合は、早くからの準備が重要だ。
「まずは、現在の会社が今年の4月以降にどういう制度になるのかをリサーチします。70歳まで働きたいなら定年を撤廃した会社を探して、できれば50代前半のうちに転職活動を開始したい。50代後半なら、60代前半までに転職する計画を立てましょう」(中島氏)
反対に、転職で負け組になりやすいのは「隣の芝生が青く見える」タイプの人だ。
「憧れ続けていた畑違いの業種や、好調な業界に転職しようとする人は意外と多い。たとえ転職できても、使い物にならないケースが圧倒的多数です。転職するなら『好きなこと』『やりたいこと』ではなく、これまで積み上げてきた経験を生かした業種に特化すべきです」(中島氏)
転職の場合、経験と専門性が強みになる。その上で、若いうちに他社でも通用するスキルを身に付ける努力が必要になる。
※週刊ポスト2021年2月12日号