亭主元気で、留守がいい──コロナ禍の在宅勤務の普及でこんな“小さな理想”が崩れたと嘆く妻は多い。一日中家にいながら、家事をまったく手伝わない夫に幻滅する妻は少なくないのだ。しかし遅かれ早かれ、夫が定年を迎える日はやってくる。ならば今のうちから、家事のやり方を仕込んでおくのが賢いやり方かもしれない。
家事分担のうち、難関は料理だ。家事の中でも特に男性が「立ち入れない」と感じる分野だという。『定年ちいぱっぱ 二人はツライよ』(毎日新聞出版)の著者でエッセイストの小川有里さんの夫の場合、「自分の家なのにどの鍋を使っていいかわからない」という状態だったという。実際、全国で料理教室などを開催するベターホーム協会の調査によれば、妻の多くは夫の定年後も昼食を作っているのが現状だ。
『ベターホームのお料理教室』には男性向けの初心者コースがあり、定年後の男性の人気を集めているという。
「定年を機に教室に来る男性は料理にまつわる基礎的な知識がなく、いきなり『キッチンを自由に使って』と言われても、何をしたらいいかわからないと困惑する人が大半です。入門コースでは『まな板の前では片足を半歩下げて斜めに立つと切りやすい』というふうに、立ち方や『台所を散らかさないためにはどうしたらいいか』という、調理しながら片づけていく方法などからお教えしています」(広報・塚田真理子さん)
こんな状況では家族の夕食を任せるのはおろか、自分ひとりの昼食すら危ういだろう。しかし『僕のコーチはがんの妻』(KADOKAWA)の著者・藤井満さんは結婚して19年、まったく料理をしなかった状況から、1年で150種類ほどのレパートリーを習得するに至った。くり返して習慣づけるのがいちばんと語る藤井さんが家事をするきっかけになったのは、妻のがんが発覚したこと。