製紙業界の2強は王子ホールディングスと日本製紙だが、どちらも1873年に渋沢が設立した抄紙会社が源流。しかし、2020年4~12月期の純利益はそれぞれ261億円、23億3600万円と差がついている。
「ペーパーレス、テレワークの流れのなかで、王子HDは早くから印刷用紙から段ボールやパルプに主力を移したが、日本製紙は従来型のビジネスから抜けきれていない。
王子は2006年に同じく渋沢ゆかりの北越製紙(現、北越コーポレーション)に対して敵対的TOBをかけ、渋沢の商業道徳を唱えた『論語と算盤』の理念に背いているのではないかと批判されました。
しかし、製紙業界の先を見据え、現状で立ち止まらないという判断は、渋沢の『もうこれで満足だという時は、すなわち衰える時である』という言葉に通ずるものがある」(同前)
ビール会社の多くも渋沢が関わっている。アサヒビールとサッポロビールは渋沢が関わった「大日本麦酒」、キリンビールは「ジャパン・ブルワリー」が源流だ。
しかし業界トップを争うアサヒ、キリンに業界4位のサッポロは大きく水をあけられている。
「渋沢はビジネスの必須条件として“時期を見ること”が大事だと話しています。アサヒやキリンは社会の健康志向の高まりにいち早く対応し、糖質オフの新製品を出したり、グループ企業でサプリメントを展開した。サッポロはバブル期に不動産事業に手を出したが、その一方で“本業”の飲料の展開で後手を踏んだ印象です」(経済ジャーナリストの福田俊之氏)
「論語と算盤」を社是に
いすゞ自動車は、渋沢が初代会長を務めた東京石川島造船所が前身。乗用車から撤退して久しいが、2020年4~12月期の純利益は284億7700万円の黒字を確保している。
「一時は倒産寸前に追い込まれたが、トラック事業への特化で業績が回復しました。トラックというのは社会インフラの側面が強く、鉄道やガスなど多くのインフラを育てた渋沢の理念に照らしても支えるべき事業です。会社の使命に“原点回帰”したことが生き残りにつながった」(前出・福田氏)