母の希望をほぼ叶えることができた
一方で、ひと家族丸ごと養子にした人もいる。2人の娘を持つ山下由花子さん(享年74・仮名)は、夫が亡くなってからも同居して身の回りの世話をしてくれた長女に、次女よりも多く、夫の遺産を渡したいと考えていた。遺産総額は1億6000万円。山下さんは、まず夫から1億6000万円を1人で相続した。これは、配偶者であれば相続税がかからない金額だ。山下さんは、全額、非課税で相続できた。
そのうえで、長女の夫と2人の孫まで自分の養子にし、「全財産を長女に相続させる」と遺言書を残した。すると、山下さんが亡くなった後の相続人は、長女+長女の夫+長女夫婦の2人の子供+次女=計5人になり、次女が受け取れる遺産は、当初の遺留分である4分の1の4000万円から、10分の1の1600万円になる。一方で、長女は一家4人で母の財産の9割を相続することになり、母の希望をほぼ叶えることができた。
『トラブル事例で学ぶ失敗しない相続対策』著者で相続コンサルタントの吉澤諭さんが、説明する。
「もし、山下さんが夫から1人で相続せず、長女一家を養子にもしておらず、遺言書もつくっていなければ、次女は父から(一次相続)法定相続分の4000万円、母の死後(二次相続)も同様に4000万円、合計8000万円を相続できてしまっていた。その差は6400万円にもなります」
配偶者から相続する場合は、このように有利な制度があることは覚えておきたい。しかし、夫や妻に渡す一次相続では非課税になっても、子供に渡す二次相続で相続税が多くかかる場合は少なくない。
「たとえば、夫が1億円、妻が3000万円持っていて、子供が2人いる場合。夫から妻に丸ごと1億円相続させると、妻が亡くなって1億3000万円を子供たちに二次相続させるとき、相続税の合計は1360万円にもなる。それよりも、夫が亡くなったときに1億円を直接子供たちに相続させ、妻の3000万円はまた別で子供たちに相続させた方がいい。そうすれば、相続税の総額は630万円で済みます」(相続終活専門協会理事の貞方大輔さん)
相続はそれまで手にしてこなかったような大金を目の当たりにする場合も多い。家族全員が納得して少しでも多く手にできるよう、周到な準備をしておきたい。
※女性セブン2021年3月11日号