学生ビザを取得して、現地で語学学校に通い、ビールを飲んだり、サッカーの試合を観に行ったりという優雅な毎日。現地の大学院に合格し、当分は憧れの地で暮らせる見込みだったが、コロナで夢は潰える。
「向こうでは毎日、日本の状況をチェックしていましたが、イギリスははるかにシビア。ロックダウンでほとんど家から出られない状況でした。これではイギリスにいても仕方ないと思い、一旦日本に帰りましたが、これほど長引くとは……」(Aさん)
またすぐに渡英できると思い、現地では部屋も契約したまま、車も駐車場に停めたままの状態。毎日のように電話で交渉を重ねたものの、「荷物を取りに来い」「車をどけろ」と言われてはおしまいで、「ムダ金をたっぷり払った」という。コロナが終息すればまだチャンスはあるが、コロナが流行し始めた頃に、東洋人であることを理由に嫌な思いをしたこともあり、「ちょっと熱が冷めた」という。
コロナが決定打になって事業凍結
子どもの頃から持ち続けてきた夢をほぼ断たれたのは、中部地方に住むNさん(40代/男性)だ。Nさんをよく知る友人のYさん(40代男性)が、Nさんについて語る。
「Nは小さい頃から飛行機を作りたいと言っていて、難関私大の理工学部を卒業し、超難関国立大学の大学院に進学。卒業後は国内の航空機メーカーに入り、希望通りの仕事に就きました」(Yさん)
中学・高校時代は、科学について分かりやすく解説した「ブルーバックス」シリーズをいつも読みふけっており、理系科目の成績は抜群だったというNさん。友人たちは、夢に向かって一直線に進むNさんを尊敬の眼差しで見つめていたが、結局、彼が作った飛行機が空を飛ぶことはなさそうだ。
「Nが携わっていたプロジェクトは、なかなか思うように進んでいませんでしたが、コロナが決定打になって、事業凍結が発表されてしまいました。Nは近々、配置転換を言い渡されるようです。同業他社に転職しないのか尋ねましたが、『業界全体の先行きが不透明で、オレの年齢ではまず無理』とのこと。何だかさっぱりしたような様子だったのが、逆に痛々しかったです」(Yさん)
夢を持ち、それに向かって突き進んだ人たちだからこそ、夢を失ったときの落胆も大きなものがあるだろう。