「将来なりたいものがまったく浮かばず、『なるべく働かず、宝くじを当てて、死ぬまで楽しく生きたいです』みたいな素直な気持ちを書いたら、担任の先生から呼び出しを受けました。みんなは弁護士、医者、サッカー選手、家業を継ぐなど立派な職業を書いていたみたいで……。そういう仕事の人はすごいなと思いますけど、別に憧れたり、自分にできるとは全然思わない。
大人になったら今度は、宝くじを買うことを『夢を買う』と言ってる人がいますよね? 僕は子供の頃、宝くじに当たることが夢だと書いたら怒られたのに、大人は勝手だなと思いました(笑)」
そうした経験から、夢を持つことが、プレッシャーになる子もいるのではと指摘する。
「僕は、夢を持っていないと、『みんなと違う』『ダメなヤツ』とか、劣っている存在みたいに見られるのではいかと、怯えてきました。そういう子が夢を聞かれて、苦し紛れに会社員やYouTuberなど、“なれそうなもの”を答えることはあり得ると思いますよ。YouTuberといえば、一時期“将来なりたい職業1位”になったことが議論を呼びましたが、それも勝手な話ですよね。子供に聞いた結果なんだから、どんな職業が1位であれ、大人がどうこう言っていい話じゃないでしょ」(Bさん)
一見、夢があるように見える人でも、実は夢があったわけでなく、単に同調していたに過ぎないケースもあるようだ。広告代理店で働く30代の女性会社員・Cさんは言う。
「よく覚えているのは、小学生の頃、文集か何かで将来の夢を書かなくてはいけなくなった時、周りの女子はほとんど保育士さんか看護師さんのどちらかを書いていたんです。私は内心、小説家に憧れていたのですが、『そんなの無理に決まってるじゃん』と言われてしまいそうな雰囲気に気圧され、本音を書くことははばかられて……。周りの子に聞くと、ボスみたいな女の子がいて、その子が書いた職業にみんな合わせていたっぽいんですよね。
でもウソは書けないし、と悩んでいたら、母親からは、『ピアノを習っているんだから、ピアノの先生にしておけば』と言われましたが、それもピンとこない。結局、適当に学校の先生とか書いてごまかしました。だいたい、子供に夢とか職業とか聞いてどうするのかっていう話ですけどね」(Cさん)
漠然とした「子供らしさ」が求められがちな「将来の夢」。大人の都合や周囲からのプレッシャーに苦しめられた人たちは少なくないようだ。