大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

悠々自適は退屈と背中合わせ 「早期リタイア」の理想と現実

早期リタイアを実現できても、思い通りにはいかない?(イラスト/井川泰年)

早期リタイアを実現できても、思い通りにはいかない?(イラスト/井川泰年)

 早くお金を貯めて若くして仕事をやめる「早期リタイア」が注目を集めている。そのためのノウハウ本も数多く出版されており、情報サイトも花盛りだ。では、その実態はどうなっているのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、早期リタイアの理想と現実について解説する。

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 若者を中心に「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」が話題になっている。

 若いうちから資産形成を進める(年間生活費の少なくとも25倍を貯蓄する)ことにより「経済的に自立」して「早期リタイア」し、その後は預貯金の利子や株式の配当金、投資信託のリターン、アパート・マンションの家賃収入などの不労所得で暮らしていくことを目指すというライフプランだ。

 経済的に自立するための資産運用は大いにやるべきだし、それが積極的なキャリアアップにつながるならよいと思う。しかし、単に早くリタイアして不労所得で趣味や遊びを楽しみながら悠々自適に暮らしたいという発想なら賛同できない。

 なぜなら、人生というものは「シリアル(直列)」ではなく「パラレル(並列)」、線路で言えば「単線」ではなく「複線・複々線」で歩んでこそ充実したものになると思うからだ。

 実際、私自身、それを実践してきた。40代で『遊び心』(新潮社)という本も書いている。その主旨は、どんなに忙しくても多くの遊びを続けて人生をエンジョイすべき、というものだ。

 さらに50代では続編の『やりたいことは全部やれ!』(講談社)を上梓した。こちらは、いつ死んでも悔いがないように、会社や仕事に振り回されたり、他人を気にしたりしないで、やりたいことは先延ばしするな、という提言である。

 私の場合、もちろん仕事には常に全力で取り組んでいるが、その一方で1年間のバケーション日程を前年末までに決め、それを墨守してクラリネット演奏、オートバイ、スノーモービル、ダイビングなどの趣味や遊びも目一杯楽しんでいる。

 しかし『遊び心』を書いた時には、多くの経営者や役員から「私も大前さんのように遊びたいですよ。でも、現実的には無理です」と言われた。

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