「倹約のしずぎ」が認知症につながった例も
北村さんは、「もしものときにも余裕をもって生活できるくらいの充分な貯蓄があったり、住宅の安全や健康などに自信があるなら、2か月ごとに年金を使い切っても大きな問題はない」と話す。
しかし、それほど余裕のある人は少ないのが現状だ。かといって、過度に倹約しすぎるのも望ましい姿とは言い切れない。
「数十年間、せっかく働いてきたのだから、女性74才、男性72才の健康寿命くらいまでは、倹約はゆるめでいい。あまりにもカツカツの生活では、お金だけでなくストレスもたまる。長生きもできません」(北村さん)
東京都在住の主婦、中川朋美さん(54才・仮名)は、離れて暮らす母親のことで頭を悩ませていた。
「昔から慎重な母は、年金をもらうようになってからは、“いつ、何があるかわからないから”と、常に倹約を心がけていました。スーパーで値引きシールが貼られるのを狙って買い物していましたし、身の回りのものはほとんど100均。終活と称していろいろなものを捨てて、大好きだった旅行にも行かず、生活は質素そのものでした」
刺激がなく、ストレスの多い暮らしが災いしたのか、中川さんの母は早くに認知症を発症したという。ファイナンシャルプランナーの山口京子さんも声をそろえる。
「“とりあえず最低限の生活ができればいい”など、なんでも安いものを選ぶ習慣は、生活の質を下げます。“好き”ではなく“安い”をすべての価値基準にして、それに慣れてしまうと、65才から死ぬまで、値引きシールだけが人生のすべてになってしまう。そうした暮らしには、幸せを感じられない人がほとんどです。人生の中で、時間がたっぷりあって、健康でいられる期間はそうありません。健康寿命までが難しくても、せめて65才からの5年間くらいは、倹約はほどほどにしては」
お金は大切だが、ただひたすらお金を貯め込むだけでは、人生を心底楽しむことにはつながらない。
「大切なのは、年金だけで生活できるスタイルをとっておくこと。貯蓄に加えて、退職金などをなるべく手つかずで残しておいて、医療や介護でお金が必要になったときに困らないようにしておけるのが理想です」(北村さん)