「老後は年金頼み」という人は、想像以上に多い。厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2019年)によると、65才以上の高齢者世帯のうち、公的年金だけで生活している人は48.4%にものぼる。高齢者の約半数が年金だけに頼った老後となっているのだ。そのうえで、「生活が苦しい」と回答した人は51.7%と、全体の半分以上を占めている。ファイナンシャルプランナーの山中伸枝さんが解説する。
「65才以上の高齢者世帯が必要とする1か月の生活費は、平均して25万円です。しかし、実際はその半分以上の世帯が、年金をはじめ収入が少ないために、毎月5万円ほどの赤字になっている。これが、2019年に話題となった、あの『老後資金2000万円問題』の実態なのです」
「年金頼みの生活なのに、年金だけでは足りない」というのが、いまの高齢者世帯の現状なのだ。では、実際には、毎月の年金の使い途はどうなっているのだろうか。「年金博士」こと、社会保険労務士の北村庄吾さんが指摘する。
「2019年の総務省の家計調査を見ると、毎月の出費の中で最も多いのが食費で、7万円近くにもなります。次いで、5万円強の交際費+教養娯楽費。つまり、飲んだり食べたり遊んだりで、半分が消えているのです。そして、残りの半分が住居費などの生活費。こんなお金の使い方をしていては、年を重ねれば重ねるほど、悠々自適の老後からは遠ざかっていくでしょう」
公的年金はいわば“終身保険”だが、老後を支えてくれるはずの年金の使い途を誤り、生活するだけで精一杯になってしまう人がほとんどなのだ。というのも、「年金は死ぬまで入ってくるから」と、受給と同時に使い切ってしまう人が少なくないのだという。千葉県で年金暮らしをする谷口佳代子さん(72才・仮名)が告白する。
「銀行預金がそこそこあるからと安心して、年金はいつも入ってくるたびに、外食したり、孫にお小遣いをあげたり、ちょっとしたぜいたくをして、使い切ってきました。それでも、それなりの暮らしはできていました。しかしあるとき、家の修繕が必要になったんです。長年暮らしてきたからガタがきていたんですが、なかなかそこまで頭が回らなくて、結局、預金のほとんどを取り崩すしかなくなってしまいました。前もって残しておいたつもりのお金が一瞬でなくなってしまうなんて、想定外でした……」
年金はそもそも、毎月振り込まれるものではない。2か月に1度、2か月分がまとめて振り込まれるようになっている。そのため、余裕があると錯覚し、つい使い込んでしまう人も少なくないのだ。