年金は、いわば老後を支えてくれる“終身保険”。計画性を持って使うことが重要であるのは間違いないが、自分のお金である以上、何にどう使うかはもちろん自由だ。倹約したり、ムダ使いで損する人がいる一方で、好きなものにとことんつぎ込んで人生を謳歌している人もいる。宮城県在住の及川ふみさん(77才・仮名)だ。
「夫が亡くなってから、アイドルの追っかけに目覚めました。夫が亡くなった直後はひどく落ち込んでいましたが、友人にコンサートに誘われて以来、夫の遺産で暮らしながら、自分の年金はすべて“推し”につぎ込んでいます」
山口さんは、65才を過ぎてからアイドルや宝塚にどっぷりハマる人が意外と多いと話す。
「東京と兵庫を行ったり来たりしたり、ファンクラブに入ってスターと一緒に旅行したり……預貯金で生活しながら年金は“推し”に全振りして、夫が亡くなってからの第二の人生で、ようやく生きがいを見つけたという人を知っています。生活に不安がなければ、いい年金の使い方だといえるでしょう」
「現役時代に貯めていたお金を使うのは、退職後にしかできないこと」だと、ファイナンシャルプランナーの山口京子さんは言う。
「もともと貯めていたお金があるなら、それを使うこと自体は悪いことではありません。もし、使い切らずに亡くなってしまったら、子供や孫は喜ぶかもしれませんが、自分で貯めたものは自分の人生の後半で使うのが基本だと思います」
ただし、すべてにおいて「貯蓄がある人に限る」というのが大前提だ。「年金博士」こと、社会保険労務士の北村庄吾さんが、「余裕がないなら、投資も、子供や孫にお小遣いをあげるのも、2か月に1回もらった年金をすべて使い切るのも、全部やってはいけない」と話す。
将来受け取れる年金額の目安を知っておこう
子供や孫、嫁にお金を渡せば、喜ばれるのは当然だ。しかし、自分が認知症や要介護状態になったときのお金は誰の財布から出るのか、よく考えてみてほしい。神奈川県在住の齊藤洋子さん(62才・仮名)が言う。
「義母は、年金暮らしを始めて間もない頃は、ことあるごとに、私や夫にお金をくれました。最初はありがたくもらっていましたが、だんだん“もらえるのが当たり前”という空気になってきて……いま、介護が必要になった義母の面倒を誰が見るのか、夫の兄ともめています。私たちにくれていたお金はとっくに使ってしまいました。貯めておいてくれれば、高齢者施設の入所費用の足しになったのに……」