2018年の民法改正で、現代の複雑な家庭事情に合うように相続ルールが順次変更されたが「争続」は絶えない。事前の準備を怠ったまま亡くなると、それまで仲が良かった家族でも揉めるケースがある。
埼玉県で工務店を営む60代の男性は、「見ず知らずの相手に、父親の財産を取られた」と語る。
男性は10年前に母親を亡くし、それ以降、83歳の父親は実家でひとり暮らしをしていた。生活に不自由しているようにも見えず、食事は近所の小料理屋を利用するとのことだったので、「住み慣れた町で過ごすのが一番だな」と考え、父親の望むままにしていた。
その後、膵臓がんを患った父親が急逝。通夜の席に小料理屋のママを名乗る女性が現われ、1枚の書類を突き出した。
「父の署名がしっかり入った遺言書で、『遺産として1000万円と車をこの女性に渡す』との内容が記されていました。さすがに籍は入れてなかったけど、老後の世話になったお礼とのことでした。近所の人によれば、父はこの女性に言われるがままに、数年前に国産車から高級外車に乗り換えていたようです……」
夢相続代表取締役で相続実務士の曽根惠子氏が指摘する。
「遺言書の効力は強い。だからこそ、書いたら家族に遺言書の存在を伝えておくなどの最低限のコミュニケーションが重要。そうしないと揉め事の種になりかねません。
遺言書の内容に誤りがあって『現金を与える』と書いたのに、そのお金が見つからないといったことが起きるのもトラブルのもとです。慎重に正確にまとめることです」