多くの人が長生きしたいものだと考えているかもしれないが、「人生の最後」がなかなか訪れないことが、時に家族内の悲劇を生むこともある。親を引き取って「3世代同居」を始めた都内在住の48歳の男性はこう話す。
「8年前に父が亡くなった時、母が『世話になるなら長男と一緒に住みたい』と言うので、古くなった実家を処分して新築物件を購入し、同居に踏み切りました。母はまだ60代で若かった。家内はパートに出ていたし、子供たちも小さかったので、家事や子供の世話をしてもらえると期待していました。
ところが同居が長引くにつれ、母は妻の料理に『味付けがなってない』『掃除が雑』などとケチをつけるようになり、家内とは険悪ムードに。子供たちも反抗期に入ると『ウザい』と敬遠するようになってしまいました」
3年ほど前から母親は足が悪くなり、玄関周りをバリアフリーにし、風呂やトイレ、廊下には手すりをつけたという。
「さらに足の状態が悪化して、車椅子用の大幅なリフォームが必要な状況になると、家内や子供たちは『何回リフォームするの?』『もう施設に入ってもらえば?』と主張。でも母は『老人ホームは絶対に嫌』だと言うし、私の弟や妹も『お母さんがかわいそうだ』と大反対。母が元気な時にはこんなことになるとは思ってもいませんでした」
高齢者の生活満足度調査を行なってきた医師の辻川覚志氏(つじかわ耳鼻咽喉科院長)も、同居には慎重になるべきだとアドバイスする。
「親世代と子供世代では生活様式がまったく違うので、合わせるのは大変なことです。しかも寿命が延びて同居期間が長くなり、想像していなかったような問題も続出しています」
親の面倒を見るなら、「想定以上の長生き」を覚悟しておく必要がある。そうしないと嬉しいはずの父母の長寿が苦痛の種になってしまいかねない。
※週刊ポスト2021年5月7・14日号