人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第19回は、世界的な「半導体不足」から見える米中対立の構図について解説する。
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今、世界が深刻な「半導体不足」に陥っている。日本でも3月、車載用の半導体「マイコン」を作るルネサスエレクトロニクスの主力工場が火災で生産停止となったが、特に自動車業界への影響は大きく、トヨタ自動車やホンダ、米ゼネラル・モーターズなど世界の大手自動車メーカーが軒並み減産を強いられている状況だ。
4月16日の日米首脳会談では、52年ぶりに突如「台湾」の文字が共同声明に盛り込まれたが、実はこれも、昨今の半導体不足が背景にある。どういうことか。大きなきっかけは、バイデン政権になってなお先鋭化する「米中対立」だ。
昨年9月、トランプ前政権下で中国の通信大手・ファーウェイ(華為技術)に対する半導体の輸出規制が始まり、中国向けの半導体の供給が停止された。半導体の調達ができなくなる事態を恐れたファーウェイなどの中国勢は、規制開始の直前に駆け込みで世界中の半導体を買い漁った。その結果、世界的な半導体不足につながったのである。
いまや世界の二大経済国となった米中が、なぜそこまで半導体にこだわるのか。そもそも半導体は「産業の米」と言われ、スマートフォンや家電、車、軍事関連などありとあらゆる機器に組み込まれる。それらを動かす大元となる半導体が無ければ、スマホで通信もできず、テレビもエアコンも使えなくなり、現代人の生活そのものが成り立たなくなる。さらには軍事上重要な役割を担う空母や駆逐艦も“半導体の塊”と言え、安全保障上も極めて重要な戦略物資となっているのだ。
そうしたなか、最先端の半導体生産で世界シェア6割を握るのが、ほかでもない台湾メーカーである。なかでも最大手のTSMC(台湾積体電路製造)は、「5ナノメートル」という超微細な半導体生産技術で世界唯一と言ってもいい技術力を持つ。最先端の半導体工場を作ろうとしても最低で1000億~2000億円はかかり、工期も2年ほど要するとされるため、簡単には作れない。それゆえ、台湾の半導体をいかに囲い込むかが国家戦略の要となっている。日米首脳会談で「台湾海峡の平和と安定」が謳われたのは、中国を牽制したい米国の意向が働いたからなのだ。