真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

「混迷続く東芝」と「転換遂げた日立」、両社の明暗を分けたもの

買収提案に揺れる東芝(写真/時事通信フォト)

買収提案に揺れる東芝(写真/時事通信フォト)

 人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第16回は、外資からの買収提案に揺れる東芝と、グループ再編を加速する日立の明暗について分析する。

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 東芝が再び揺れている。不正会計問題や米原発事業での巨額赤字が発覚し債務超過に陥った同社は、上場廃止の危機に直面し、2017年に約6000億円の巨額増資に踏み切った。だが、この時出資した海外の投資ファンドなどが「物言う株主」として経営に口を挟む状況が続き、難しい経営の舵取りを強いられてきた。

 そうしたなか、今年4月初め、英投資ファンドの「CVCキャピタル・パートナーズ」が同社の買収を提案。さらに、CVCとは別の投資ファンドも買収を検討していることが報じられ、東芝を巡る買収合戦も予想されるなか、4月14日には車谷暢昭社長が辞任を表明。翌15日にも、東芝がCVCの買収提案を拒否する方向で調整に入ったという一部報道もあり、事態は混迷を極めている。

 CVCの提案の中身は、7~8月にも株式公開買い付け(TOB)を行ない、既存株主から1株あたり約5000円で買い取り、株式を非公開化するというもの。実現すれば、東芝にとっては“助け舟”となる可能性があった。買収話が明らかになって以降、今のうちに買っておいてTOBで高値で買い取ってもらおうと考える投資家の思惑買いも膨らみ、東芝株は一時急騰した。

 東芝といえば、家電から原発まで手がける総合電機メーカーの雄として日立製作所と肩を並べるような存在だった。だがいまや、「物言う株主」の投資ファンドの圧力を受け、思うように経営できない状況だ。これを打破すべく、東芝はまた別の投資ファンドに救いの手を求めなければならず、かつての名声はどこかに吹き飛んでしまったかのようである。

 ライバルだったはずの日立との差も歴然だ。直近(2020年3月期)の業績を見ても、東芝の売上高は3兆3898億円、最終損益は1146億円の大幅赤字だったのに対し、日立は売上高8兆7672億円、最終損益は1272億円の黒字。時価総額も東芝の約2兆円に対し、日立は約5兆円と明暗がくっきりと分かれている格好だ。

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