長年連れ添ったパートナーを亡くし、このままおひとり老後を過ごすくらいなら……と、再婚に踏み切る人もいる。60歳以上を対象とした婚活事業やマッチング事業も登場し、老後の再婚はいまや珍しくはない。都内在住の70代男性はこう語る。
「5年前に妻が亡くなり、1人で過ごすのが寂しくなったので、知人に女性を紹介してもらい、再婚に踏み切りました。お互いに子供はいたものの、すでに独立しており、反対はされなかった。1人だと面倒くさくて食事や掃除がいい加減になってしまっていたが、再婚したことで家事を分担したり、週末に2人で出かけたりと、生活にメリハリが出ました。子供も“表情が明るくなったね”と喜んでくれた」
しかし、1年ほど前に体調を崩したのをきっかけに、自分が死んだ後のことが気になり始めた。
「遺産の一部が今の妻に渡ること自体は気になりません。でも、その妻が亡くなればほとんど顔も合わせたことのない妻の子供にそのお金が渡ってしまうことにモヤモヤしています。子供も同じ心配をしているのか、“父さんは遺言書を用意しているの?”と探りを入れてくるようになった」(同前)
税理士法人タックス・アイズ代表の五十嵐明彦氏はこう話す。
「前妻との間に子供がいて再婚した場合、財産の2分の1が後妻の法定相続分となります。後妻が亡くなった後は、後妻の家族や子供が相続し、自分の子には回ってこない。遺言書に“すべて自分の子に相続させる”と書いたとしても、後妻が遺留分を主張すれば、法定相続分の半分にあたる遺産の4分の1を相続する権利がある。新しい妻の生活は守りたいものの、自分の財産が後妻の家族へ渡っていくことに後から気づき、不満や後悔の念を抱く人は多い」
再婚した父が思わぬ内容の遺言書を残していた
2018年の相続法大改正では、後妻を含む「配偶者」の権利を守るための新ルールができた。それがトラブルの種となることもある。
60歳を過ぎた父が再婚、その後、後妻を残して亡くなったという男性はこう話す。
「私自身は実家から離れた都心に住んでいることもあり、なかなか父に会いに行けず、亡くなる前も特に相続の相談はしていませんでした。資産といっても実家の土地・建物くらいだから、深く考えていなかった」