武力によらず中国と台湾が共存する道
中国は台湾の企業と経営ノウハウを持つ人材によって成長してきたと言っても過言ではない。もし台湾有事が起きて台湾企業や台湾人が一斉に引き揚げたら、中国経済は破綻してしまう。習近平が経済を優先するなら、台湾侵攻のトリガーは絶対に引けないのだ。そういう現実を習近平に思い知らせて、武力によらず平和裏に中国と台湾が共存する道を探らねばならない。
そのためには、中国と台湾の問題を歴史的な経緯から読み解くべきである。今のトラブルを生んだのは、1971年7月の「第一次ニクソン・ショック」だ。当時のヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官が「密使」として極秘に中国を訪れて交渉を進め、ニクソン大統領が翌年の中国訪問を電撃発表したのである。そしてアメリカが横車を押して同年10月、台湾(中華民国)に代わって中国(中華人民共和国)が国連安全保障理事会常任理事国となり、台湾は国連から追放された。
アメリカは蒋介石に仁義を切らずにハシゴを外したのである。これが最大の過ちであり、台湾の50年にわたる苦しみの元凶なのである。このボタンの掛け違いを直すべきなのだ。
平和的解決策はただ一つ、中国と台湾による「中華連邦」の構築である。つまり、新たな「国共合作」を呼びかけ(台湾の国民党は野党だが)、中国が台湾の自治権と代表を民主的な選挙で選ぶことを認めた上で、台湾は中国の一つの省になって国連に復帰する道を模索するのだ。台湾としても、戦争で大勢の犠牲者を出して焦土と化すよりはベターな選択だろう。この柔軟な連邦国家の枠組みがあれば、チベット、新疆ウイグル、内モンゴル、香港なども自立省として平和裏に生き延びていくことができる。
とはいえ、実現は非常に難しい。独裁者・習近平を説得できる技量を持った“仲介役”が見当たらないからだ。しかし、台湾有事は中国、台湾、アメリカ、日本すべての関係国にとって悪夢だ。「中華連邦」のコンセプトで統一を目指すしか、日本が戦争に直接巻き込まれる危機を回避する方法はないと思うのである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『稼ぎ続ける力』(小学館新書)など著書多数。
※週刊ポスト2021年5月28日号