──2015年からは約5年間、子会社である滋賀県の近江鉄道で社長を務めた。
喜多村:滋賀県は堤康次郎の郷里で、西武グループに縁が深い土地です。しかしまさか、自分が社長を務めることになるとは思いもしませんでした。私は京都出身ですが、着任するまで近江鉄道に乗ったことは一度もなかったほどでした。
20年以上赤字が続いていた近江鉄道を立て直すにあたり、痛感したのは地元とのコミュニケーションの重要性です。それまでは近江鉄道の苦境を沿線自治体や住民の方々に丁寧に説明できておらず、事業の再構築を提案しても理解を得ることが難しかった。
そこで県庁などに足繁く通い、経営状況について詳しくご説明するなどコミュニケーション不足の解消を図りました。同時に、社員総出で月に一度、線路沿いの草刈りを行ない、駅舎のペンキ塗り替えも業者に頼まず自分たちで行なった。
近江鉄道では、インフラも人材も資金も限られていた。そんな中でやりくりした5年間は貴重な経験でしたし、これまで自分がいかに大都市の私鉄で恵まれていたかを実感しました。
としまえん→ハリー・ポッター
──コロナ禍で通勤・通学やレジャーが制限され、鉄道会社にとって逆風の時代です。
喜多村:こんな時こそ、我々は「社会インフラ」を支えているという責任感を忘れてはいけないと思います。西武沿線の魅力を感じ取っていただける方を1人でも多く掘り起こしていく努力を愚直にやっていかなければいけません。
──具体策は?
喜多村:西武池袋線と西武新宿線の結節点である所沢駅と周辺エリアの開発に力を入れています。
まず、所沢駅構内に新たな商業施設「グランエミオ所沢」を開業しました。
プロ野球開幕に合わせ、180億円を投じて埼玉西武ライオンズの本拠地・メットライフドームの改修も行ない、同エリアにある西武園ゆうえんちも、心あたたまる昭和の世界観で5月19日にリニューアルオープンします。
合わせて、ドームや西武園ゆうえんちにお越しの際にご利用いただく山口線(レオライナー)では、100%自社の太陽光発電で運行することにより、CO2排出量を実質ゼロで運行する取り組みも開始しています。
また、昨年8月末で閉園したとしまえん(東京・練馬区)の跡地には、ワーナーブラザースがハリー・ポッターの体験型施設を建設中で、2023年前半の開業を目指しています。
沿線にある川越と秩父という2大観光地も盛り上げていきたい。一昨年に導入した新型特急「Laview」も好評です。コロナ禍で観光が難しい状況ではありますが、女優の土屋太鳳さんを起用したテレビCMの効果もあり、秩父や川越の魅力が徐々に浸透しているようです。