いざという時のリスクに備える保険がリスクそのものになることがある。保険の中でも最もニーズが高いのは医療保険だ。がん保険を含めた医療保険の契約件数は3677万件にのぼり、生命保険文化センター(2018年)によると、がん保険や、がん特約の加入率は全国世帯の6割を超える。都内の60代男性が語る。
「高額な治療費を子供に負担させるのは忍びなく、定年を機にがん保険に加入しました。月々の保険料は5000円で、入院したら1日5000円が給付されます。国民の2人に1人はがんになると言われるので、保険に加入して安心しました」
だがファイナンシャルプランナーの深野康彦氏は、「この男性の保険料は、ムダになる可能性が高い」と指摘する。
「この男性が平均寿命を迎える84歳までに支払う保険料は、ざっと150万円です。しかし健康保険の高額療養費制度を利用すれば、平均的な収入の家庭ならがんの医療費が100万円かかっても、月額の自己負担は9万円ほどですむ。がんはほとんどの医療費を公的なサポートでカバーできます。
がんにならなければ150万円の保険料のリターンはゼロに近い。加入は冷静に考えましょう」
医療保険には別の落とし穴もある。都内の70代男性は脳腫瘍の手術で1か月入院したが、4か月後に再発が見つかり、さらに2か月入院した。
「しかし『一回の入院で給付するのは最大60日分』との規定で、2度目の入院では30日分までしか保険が下りなかった。残りの30日分は自腹扱いでした」(70代男性)
深野氏が指摘する。
「多くの医療保険には、同じ原因で退院から6か月以内に再入院した場合、合わせて1回の入院とする『180日ルール』があります。1回の入院で支払われる日数の上限を超えると、給付金が支払われません」
※週刊ポスト2021年6月4日号