子供の将来や相続税対策のために、不動産を活用しようと考える人は少なくない。首都圏に住む68歳男性は、12年前に親の代から事業をやっていた土地にアパートを建てた。
「将来的には家賃収入で娘の暮らしが楽になればという思いで始めました。空室があっても30年間は一定水準の家賃保証があるという話だったので、安心していたのですが、10年経過した時点で見直すという条件があった。
見直しの時に、補強・修繕しなくては家賃保証がなくなってしまうと言われ、土台や壁など大規模な修繕が必要になりました。換気扇や温水器が壊れるなど、予定外の出費も少なくない。近くに同じようなアパートができるたびに家賃を下げなくてはならないし、娘の手に渡る頃には築30年以上となりかねず、資産価値はゼロになるのではないか……」
不動産の活用が相続税対策につながるのはたしかだ。相続財産を評価する際、現金は額面通りにしかならないが、不動産であれば一般的に6~8割程度の評価額になる。賃貸用アパートが建っている土地は、200平米までであれば相続税評価額が大幅に圧縮される小規模宅地等の特例もある。
それゆえ、「相続税対策でアパート経営・マンション投資を」となるわけだが、そんな簡単な話ではない。
68歳の元公務員男性は、子供に不動産のかたちで財産を残すために、分譲時は億ションだった築25年の中古物件を購入した。
「かつては有名スポーツ選手も住んでいたマンションで、ホテルのようなコンシェルジュがいて、敷地内にスポーツジムも併設している豪華な建物です。相続税対策になるうえに、賃貸の広告は月30万円くらいで出ていたので、十分に儲けが出るだろうと考えていたのですが、甘かった。
実際には広告を出しても月30万円では借り手がつかず、かといってそれより安く貸しに出してはいけないという所有者間での申し合わせがあることを後で知りました。確かに富裕層も住んでいるが、“貸せない、売れない”で仕方なく持っている人も多い不良物件だった。修繕積立金や固定資産税で、貯金がどんどん減っていくだけです」