自分にもっと収入があれば、蓄えを増やせるのに――そんな気持ちを抱くのは自然なことかもしれないが、ある程度の実入りがあっても、貯金を増やせない人がたくさんいる。メーカー勤務だった72歳の元会社員はこう嘆く。
「サラリーマン時代は高給取りというほどではなかったが、同年代の友人のなかでは恵まれていると思えるくらいの収入がありました。しかも、営業職だったので、平日の会食も週末の接待ゴルフもすべて経費で、会社からはゴルフ場の会員権も与えられていた。さすがに経費が使い放題だったバブル時代より回数は減ったものの、定年近くまでそういう生活が続いたので、身銭を切る感覚というものがなかった。それがいけなかったのでしょうか……」
この男性は退職時に会員権を会社に返却したが、現役時代の気持ちを引きずっていたこともあり、退職金の一部を使って中堅クラスのゴルフ場会員権を購入した。
「メンバー内でゴルフ仲間ができると毎週のように誘われるわけです。みんな中小企業のオーナーや歯医者で余裕がありそうだけど、こっちは年金生活者だから、毎週になると正直、懐が苦しい。ゴルフ場の年会費6万円も負担に感じるくらいだけど、“生活が厳しいから”と言えず、なかなか断わりづらい。そういう断ち切れない付き合いは多くて、サラリーマン時代の仲間からも定期的に飲み会に誘われます。
会社員時代は給料をすべて家内に渡していたものの、やりくりして200万円ほどヘソクリにして貯めていました。それが定年からたった4年で底をついてしまった。最近はコロナで飲み会がないので、正直ホッとしています」(同前)
会社員時代の収入が多ければ年金額も多くなるはずだが、生活水準が下げられなければ、蓄えはどんどん減っていくのだ。