贅沢なんてしてないのに…
“高収入だったのにお金がない”というのは、珍しい話ではない。金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯、2019年)」によれば、年収1000万~1200万円の世帯の約10%が「金融資産非保有」となっており、貯蓄はゼロだ。
当然ながら、日々の支出に問題があるわけだ。経済ジャーナリスト・荻原博子氏が指摘する。
「定年などのタイミングで生活を見直さなくてはならないのに、変化を怖れて支出を絞れない人が非常に多い。いい時代を一緒に過ごした友人・知人に見栄を張ってしまうという面もあります。とりわけ、現役時代に頑張って稼いでいた人ほど、生活水準を下げられずにいる傾向があります。
また、現在の50~60代は働き盛りの頃にバブル景気を経験し、クレジットカードを使いまくっていた世代です。どんぶり勘定が当たり前で、根拠もなく“なんとかなる”という金銭感覚を抱きがちです。逆に、バブルを知らない30代以下のほうが、“不況が続いているから貯金をしなくては”という意識が強い。お金があって恵まれている世代のほうが家計危機に陥りやすいという現実があるわけです」
現役時代から貯金の習慣もなく、退職後も家計支出が多いままでは、破綻に向かうのは目に見えている。それでも、生活レベルを改めるのは難しいようだ。
中堅メーカーに勤めていた都内在住の67歳男性は、定年直前に“自分へのご褒美”として新車を購入したが、今では毎月6万円のローン返済と3万円の駐車場代が家計を圧迫しているという。
「贅沢をしているつもりはないんですが、この生活を改めないと確実に先細りしてしまうのはわかっています。現役時代は気にもしなかったのですが、ウチは小規模な低層分譲マンションなので管理費の負担も大きい。もちろん年金だけじゃ足りないので蓄えをどんどん取り崩しています。
ただ、今さら狭い家や郊外に引っ越すのも嫌だし、食生活もみすぼらしいものにはしたくない。そういう気持ちで、ズルズルと同じ暮らしを続けてしまっています」
家計の見直しが先延ばしになるほど「使いどころを間違えたお金」がどんどん財布から出て行くことになる。
※週刊ポスト2021年6月11日号