そもそも、リチウム電池業界は、寧徳時代やBYDといった中国勢が強いとはいえ、日本のパナソニック、韓国のLG化学、サムソンSDI、SKイノベーションなども、必死に設備投資を続けており、業界内の競争は厳しい。いくら基礎技術の高いアメリカ企業であっても、新規参入してすぐに利益を上げるのは簡単ではない。
リチウム電池は正極材、負極材、電解液、セパレータといった主要材料に加え、金属箔や、バインダー、添加剤など関連部材は少なくない。これらの材料は中国を含め主にアジア企業が大きなサプライチェーンを形成する中で製造されている。いくら中国の電池メーカーだけを排除したとしても、広範な関連部材メーカーまですべての中国企業を排除するのは極めて難しい。
そうした背景があるため、中国に対抗する目的でバイデン政権がアメリカ国内の電気自動車製造、あるいはリチウム電池製造のための設備投資を刺激しようとしても、中国企業を排除するどころか、業界全体の成長加速によって中国企業にビジネスチャンスを与えてしまうことになる。関連する中国企業の株価急騰はそのことを物語っている。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。