果たして、どれくらいの人が“隣家との境界線”をしっかりと把握できているのだろうか──。その境界線上にある“共有の塀”が思わぬトラブルに発展することもある。もしも、隣家から塀の撤去を求められたら、同対処すべきなのか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
先日、隣人からの依頼で、土地境界を確認するための測量に立ち会いました。専門家が測量したところ、うちの塀が3cmほど隣家にはみ出していることが発覚。すると、隣人から「今後、土地を売る予定があるので塀を撤去してほしい」と言われました。しかし、塀を撤去したり、ずらしたりするにはかなりの費用がかかるのでしたくありません。これまで隣人とは仲よくしてきただけに、急にそんなことを言われても納得できません。塀は撤去しないといけないのでしょうか。(東京都60才・女性)
【回答】
境界線上に隣地所有者と共有の塀を設置できますが、問題の塀はあなたの家の敷地内のつもりで単独で設置したのですね。その場合、塀が境界を越えていると、隣家の承諾がなければ隣地所有権を侵害する不法行為になります。そこで隣家は侵害回復のために塀の撤去を請求できます。
しかし、境界確認がされるまで争いがなかったことから、長年にわたって塀が両土地の境界線に沿って設置されていると考えられていたのでしょう。隣地側に別に塀がなければ、隣家もあなたの家の塀を境として重宝していたといえないこともありません。取り壊して塀を再築する費用が安くないとすると、3cmの侵害で塀の撤去を請求するのは権利の濫用となる可能性もあります。
もしあなたが断れば、隣家は実力で壊すことはできないので、隣人は裁判所に訴えるしかありませんが、あなたが裁判で権利の濫用だと反論すれば、すぐに決着はつかないでしょう。仮に塀が20mあったとすると0.6平方メートルの侵害です。これがどの程度の経済価値になるかはその土地によって違いますが、例えば東京の銀座なら馬鹿にできない金額になり、血相を変えて争うケースもありますから、裁判所の判断は予断を許しません。