しかし、あなたには別に時効取得の反論ができるかもしれません。他人の物を自分の物と思って占有して、自分の物と思ったことに過失がなければ10年、過失があっても20年で、占有者が占有している物の所有権を取得できる制度です。塀を作った時点で、隣地に入り込んでいることを知らなかったのですから、普通は自分の土地だと思っていたことになります。その場合、設置時点から10年または20年でその3cmの幅で侵害した隣地は時効となり、所有権を取得したと主張も可能です。もしあなたが時効取得の反論をすれば、判決まで一層時間がかかるでしょう。
隣家は土地を売る予定のようですが、裁判になると、売却計画は大幅に遅れることになります。あなたが測量結果を受け入れるのであれば、時効取得の主張までして隣家の土地の一部を奪って遺恨を残すより、塀を確保する現実的な方法を検討するのがよいと思います。類似例で多くみられることですが、境界は境界として確定しておき、塀が3cm入り込んでいることも確認し、現状の塀を承認してもらい、将来の再築時に境界線まで下がることを約束する文書を交換して解決とするように提案されてはいかがですか。
【プロフィール 】
竹下正己 (たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2021年6月24日号