ところが日本は、日本銀行が「異次元金融緩和」を8年以上も継続して財務省(国立印刷局)が紙幣を刷りまくり、大量発行する国債の消化資金を民間金融機関に提供してきた。そして、その国債を日銀が民間金融機関から買い取って自ら貯め込み、“禁じ手”とされている事実上の財政ファイナンス(中央銀行が通貨を発行して国債を直接引き受けること)を続けている。
FRB(米連邦準備制度理事会)やECBも日銀と同じように金融緩和を行なっているが、むしろFRBやECBは日銀を先行指標として注視している。
一方、日本人の多くは、自分は国債と関係ないと思っている。たしかに、個人(家計)の国債保有率は1.3%にすぎない。だが実際は、郵便貯金や銀行預金が金融機関を通じて国債に流れ、さらに日銀とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という「2頭の鯨」が国債と株を爆買いしている。つまり、個人金融資産は国債に化け、年金積立金も国債と株に形を変えているわけで、政府が財政破綻したら国民も一蓮托生なのだ。
かつては財務省が野放図な予算拡大・国債増発に反対して警鐘を鳴らしていた。しかし、政治家は聞く耳を持たず、さらに2014年に内閣人事局が創設されて官僚人事に対する首相官邸の力が決定的に強まって以降は、財務省も官邸に服従するようになってしまった。
だが、今の日本は政治家に政府債務に対する危機感がなく、今後も少子化と生産年齢人口の減少が続く。GAFAMのような巨大IT企業もなければ、アメリカや中国などで続々と誕生しているデカコーン・ユニコーン(※)も全く出てこない。このような状況では、巨額の政府債務を返せるわけがない。
【※株式評価額〈時価総額〉が100億ドル以上と評価される未上場のベンチャー企業がデカコーン、同10億ドル以上がユニコーン】
では、国民はどうすればよいのか? 資金に余裕があれば、政府が財政破綻しても影響が少ない不動産や金を買っておいたほうがよいだろう。利息が付く預貯金は元本1000万円までとその利息しか保護されないし、株や投資信託や債券も国が破綻すれば国債と同じく紙屑同然になるからだ。
ただし、最も有効な対策は、自分に投資して世界のどこに行っても稼げる人間になることだ。もし日本が破綻したとしても、世界のどこかに繁栄しているところはあるはずだから、そこで稼げる力を磨いておくことが唯一の安全・安心・有望な投資先なのである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2021~22』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2021年7月2日号