日経平均株価が約30年ぶりに3万円の大台を回復した。菅義偉・首相は国会で株価3万円が実体経済と乖離していると指摘されるとこう反論した。「株高というのは、年金運用を通して国民に幅広く恩恵がある」──。
それは真っ赤なウソだ。経済ジャーナリストの荻原博子氏が語る。
「株価が上昇すれば株主や会社は潤いますが、不況下の株高なので従業員の給料には反映されない。それどころか実質賃金は下がっている。現在の年金制度は現役世代の給料に連動しているので、給料が下がれば年金も減らされます」
厚労省がこの2月に発表した昨年12月の実質賃金は1.9%のマイナスで10か月連続で低下した。
今年から物価が下がらなくても実質賃金が下がれば年金が減額される新制度が実施される。本誌・週刊ポストが専門家の協力のもと試算したところによると、このまま実質賃金の低下が続けば来年4月分から年金支給額が毎年大幅に引き下げられ、2025年には「元サラリーマンと専業主婦」の世帯は夫婦の年金が年間14万円も少なくなる可能性がある(週刊ポスト2月19日号既報)。株高で年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)利益をあげてもそれは変わらない。
物価上昇の懸念もある。米国ではすでに株式市場に引っ張られるように商品相場も上昇している。コロナによる需要激減で一時は“マイナス価格”をつけた原油価格も、ニューヨーク先物は約1年ぶりに60ドル台を回復。鉄鋼などの素材価格も上昇している。長くデフレが続く日本で、すぐに物価が全面的に上昇すると考える専門家は少ないが、すでに年初から砂糖や家庭用油など生活必需品の値上げが始まっており、インフレが現実のものとなれば、日経平均3万円の恩恵にあずかれなかった多くの国民にとっては悪夢だ。
しかも、物価が上昇に転じると、年金生活者は「マクロ経済スライド」という仕組みによって年金の増額が抑制され、毎年給付水準がカットされていく。