「彼らは言いがかりをつけている」と猛反発
ただ、この中国陰謀説はその後のネット民たちの投稿で急速に収束することになった。そもそも、この監視カメラは隠しカメラなどではなく、もともと彼らが借りる前からそこに設置されていたことが明らかになったからだ。
こうした状況を受けてテレグラフも、彼らが入居する前からカメラが設置されている証拠写真、ハンコック氏が笑顔でガッツポーズする姿の真上に監視カメラが写り込んでいる写真などを掲載。行為が行われたドアのすぐ近くにもともと監視カメラが設置されていた事実を伝えている。ただ、それでも「もともとこのカメラは窓側に向けられていたが、なぜそれがオフィス内側に向けられたのかは定かではない」と、中国陰謀説を捨ててはいないようにも見える。
こうした一連の報道にグローバルタイムズは、以下のように反発している。
「監視カメラは単なる製品に過ぎない。それを買い、使う者だけが、その用途を決めることができる……彼らが言うように、たとえもし仮に中国人が隠しカメラを設置したとしても、事件はオフィスの中で起きており、その情報をリークしたのは内部者である」
「こんな基本的な常識以下のことも顧みず、ただ単に監視カメラが杭州海康威視数字技術の製品であったというだけで、彼らは言いがかりをつけている」
この件でカギとなったのはネット民たちの投稿だ。海外政府やマスコミが、自国の産業を守るために中国企業の5Gネットワークシステムを排除したり、自国のコロナ対策が上手くいかずに大量の感染者、死亡者を発生させたことを棚に上げて、中国批判を繰り返している。だが、それを民意に変えていくには、正確な事実関係、反論の余地のない動かぬ証拠が必要だ。
これだけインターネットが発達し、国境を越え、言語の壁を越えて、自由に情報のやりとりができるようになると、政治家や一部のマスコミが民意を誘導するのは容易ではない。安易な情報操作はかえって信頼を失いかねない。これまで以上に、高いインテリジェンスが求められる時代になったようだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。