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三木谷浩史氏と孫正義氏 プロ野球参入から17年、再び交わる二人の軌跡

 1996年、孫はメディア王、ルパート・マードックと組んで「テレビ朝日買収」を仕掛けた。2005年、今度は三木谷が東京放送(TBS)の株式を買い占めた。だが、二人の「テレビ買収」は「海賊どもに権益を渡してなるものか」という財界のぶ厚い壁に跳ね返された。

 プロ野球参入から2017年。三木谷と孫は、ベンチャーが便所ではないことを証明した。今シーズン、東北楽天ゴールデンイーグルスには大エースの田中将大が帰ってきた。四連覇中のソフトバンクホークスは、文句なしの常勝軍団である。

 ソフトバンクグループの株式時価総額は12兆5100億円でトヨタ自動車、ソニーグループ、キーエンスに次ぐ日本4位。携帯電話子会社のソフトバンク、ネット子会社のZホールディングスを加えれば24兆円で首位のトヨタ(31兆7300億円)に迫る。

 そして今、二人の軌跡が再び交わろうとしている。楽天モバイルによる携帯電話参入だ。

 2020年、楽天は自前回線を持つ「四番目の会社」として携帯電話事業に参入した。ソフトバンクが携帯電話に参入したのは15年前。孫はこの分野では既得権益を持つ側であり、そこに破壊者として三木谷が乗り込んだ。

「データ使い放題で月額2980円」

 楽天の料金プランは破格だった。メガ・キャリアと呼ばれる先発3社の「データ使い放題」の料金プランは概ね月額1万円だったから、3分の1の値段で突撃したことになる。まさに価格破壊だが、「安い分だけ通信の品質が低いのではないか」とも言われた。

 サービスを始めたときは電波のカバーエリアが東京、名古屋、大阪などに限られた。しかし楽天モバイルは猛烈な勢いで全国にアンテナを立て続けており、今夏には人口ベースのカバー率が96%に達する。余程の山奥や離島に行かない限り、電波は届くようになる。

 カバー率の上昇に合わせて利用者も増えており、契約数は7月末時点で500万件に迫る。

 総務省によると2021年3月末時点の日本の携帯電話契約数は約1億9000万件。ドコモが約7000万件、KDDIが約5000万件、ソフトバンクが約4000万件だから楽天モバイルが500万件に達しても、3強1弱の構図には変わりない。それでも三木谷が仕掛けた価格破壊は3メガを動かした。

 ドコモは「ahamo(アハモ)」、KDDIは「povo(ポボ)」、ソフトバンクは「SoftBank on LINE」のプラン名で「データ利用量20ギガバイトまで月額2980円」のサービスを打ち出した。

 20ギガバイトの制限があるので、楽天モバイルには敵わない。3メガのデータ利用無制限プランは今でも月額6580円だ。さらに4月、三木谷は無制限は2980円としたまま月間のデータ使用量が1ギガ以下の場合は無料、1~3ギガ以下は980円、3~20ギガは1980円とする新プランを打ち出し、3メガを突き放した。

 なぜここまで安くできるのか。

「F1カーとGTカーの違いかな」

 三木谷はこう説明する。楽天モバイルは「ネットワークの完全仮想化」という全く新しい技術を使っている。これまでの携帯電話の信号処理は、専用のハードウェア(機器)が必要だった。それを特別な機器を使わず、どこにでもあるサーバーを使って全てソフトウェアでやってしまう世界初の試みだ。従来の携帯電話ネットワークとはコスト構造が全く違う。

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