家庭裁判所に持ち込まれる相続トラブルは最近の20年で約1.5倍に増え、近年は高止まりが続いている(2020年の新受件数は1万4617件)。そしてその大半は「遺産5000万円以下」のケースが占めるという。
「相続は、遺産が少ないほどトラブルになりやすい」──そう指摘するのは、税理士の橘慶太氏(円満相続税理士法人代表)だ。「なかでも多いのは、親の資産が持ち家のみで現預金がほとんどないパターン」だという。
争いの当事者は、兄弟姉妹同士が圧倒的に多い。
「父が残した評価額2000万円の自宅を4人の息子が相続するケースでは、家を継ぐ約束をした長男が弟3人に『家は分けられないから』と遺産を諦めるよう求め、弟たちとトラブルに発展しました」(橘氏、以下同)
弟3人は「長兄が自宅を相続するなら、それぞれに500万円を現金で渡すか、家を売って4等分にするべき」と主張した。
「こうしたケースでは、家を継ぐ長男が代償金を500万円ずつ渡して事態を収めることが多いのですが、そもそも父親が生前に遺言書で『自宅は長男に渡す』と書いていたら、不公平な配分でも一定の法的拘束力が生じます。均等配分にしない理由を息子全員に説明しておくことも大事です」
遺言書を残すのは相続対策の基本だが、状況によっては遺言書があってもトラブルにつながることがある。
「遺産分配に不満を持つ相続人が『遺言書の無効』を訴えるケースは多い。最近あったのが、『遺産はすべて長男に渡す』と書かれた遺言書に、次男らが『作成時には親が認知症だった』と無効を主張した事例です。
たとえ公証役場で作成し保管していた公正証書遺言だとしても、“絶対安心”ではありません。過去には、『故人の思いが反映されていない』と、公正証書遺言が後の裁判で無効になったケースがあります」