そこで、所有権の取得者が確定するまでのつなぎとして「相続人申告登記(仮称)」という制度も新設された。
「相続人が法務局で『相続人申告登記』をすると、登記簿には、亡くなった登記名義人の死亡日と申告した相続人の住所氏名が公示され、その相続人は義務を履行したことになり、過料は科されません。ただし、その後に遺産分割協議が成立した場合は、3年以内に相続登記を行なわないと過料が科されます」(野谷氏)
第三者に権利を主張される!?
“罰金”のリスクだけでなく、遺産分割後に速やかに登記しないと、せっかく相続した権利が第三者に奪われてしまうケースも想定されるという。
2019年の相続法改正により、遺言や遺産分割協議などで法定相続分より多い割合の遺産を取得した場合、その遺産ごとに相続登記が必要となった。
「たとえば亡くなった夫の遺言書により妻が自宅不動産を100%相続したケース。妻が相続登記をしないでいる間に、お金に困ったひとり息子が、妻と息子の共有名義とする登記手続きをしてしまったとします。
そのうえで、息子が自分の持ち分を第三者の不動産屋などに売却して登記が完了してしまうと、妻は本来100%だったはずの所有権が主張できなくなってしまうのです。先に登記したほうが勝ちなので、早めの相続登記が必須になります」(野谷氏)
相続した自宅などの不動産は、手入れも怠らないようにしたい。古い住宅を放置して、自治体から倒壊などの恐れがある「特定空き家」に認定されると、建物の撤去費用のほか、固定資産税が最大で6倍に跳ね上がって“負動産”となってしまう。
「相続登記の義務化によって相続税の申告が不要な人にも『3年以内』という目安ができた。重要なのは遺言書を作って不動産の相続人を指定しておくこと。そうすれば、法務局での名義変更はスムーズになります。
不動産の評価額により名義変更にかかる費用は異なりますが、一般的な規模と立地の住宅であれば、10万円の罰金よりは安い場合もあります」(曽根氏)
面倒だからと後回しにせず、手続きを怠ることのないようにしたい。
※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号