社長自らが自社商品を紹介する“社長CMにはインパクトが強いものが多い。なかでも、「やっぱりイナバ。100人乗っても大丈夫」という掛け声が印象的なイナバ物置のCMは、多くの人が一度は目にしたことがあるのではないだろうか。『稲葉製作所』(東京・大田区)の社長・稲葉明さんに、CM出演の経緯や撮影舞台裏を聞いた。
自社製品のガレージに乗った100人の中で、唯一青いスーツを着ているのが、稲葉さんだ。1987年から続くCMは、数あるCMの中でもシンプルさとインパクトで際立っている。
「トヨタの車が水しぶきを上げながら海岸線を走るCMを見た先代社長が、『なんてサビに強い車を造ったんだ』と感動しました。で、そんなふうに製品のメリットを瞬時に訴えられるCMを作ろうということになったんです」(稲葉さん・以下同)
当時、他社では棚板をオプションにすることが多かったが、同社では標準装備にして、しかも頑丈であることを訴求するため、モデルが棚板に座るCMを制作した。その後、自社製品の屋根の強さを訴求するため、現在のスタイルのCMが作られた。
「あのキャッチコピーは社内公募から選ばれたものです。最初は、物置のいちばん大きいものでも60人乗るのがやっとでしたが、豪雪地用ガレージを使って100人乗ることに成功しました。
CM出演は、最初の4回は先代が、それ以降は、私が先頭を務め、撮影回数はかれこれ29回に及びます。例年、年1回、決算後の8月にCM撮影を行うのですが、去年と今年はコロナ禍のため、『密になる』という理由で、2年連続で撮影中止となっています」
コロナ禍の影響はこの名物CMにも及んでいたのだ。
『稲葉製作所』は、物置のほか、オフィス家具なども手がけている東証一部上場企業だが、物置メーカーとしては最後発。それを一気に国内シェア4割にまで押し上げたのはCMの力が大きいという。
「実は、ガレージの上に座る99人の位置は、代理店の営業成績で毎年変わります。彼らが着ている法被の色も毎年変わり、直近のCM(2019年)では、黄色を着ているのは売り上げ1~29位の上位者、青が30~59位、赤がそれ以外の関係先でしたね」