「生前に父があると言っていた銀行の預金通帳が見つからず、本当に苦労しました」──経済アナリストの森永卓郎氏は、実父が亡くなった時のことをそう振り返る。
2006年に父親が要介護4となり、森永氏が在宅介護するも、その後、結腸がんが見つかり、高齢者施設に入居。費用は森永氏が捻出したが、2011年に亡くなった後、相続の手続きの段階では大変な思いをしたという。
「最初はどこにどんな口座があるかも分からなくて……。父の家の郵便物から銀行の通知書類を洗い出し、8つ口座が見つかりました。そこからがさらに大変で、法定相続人全員の依頼書類と、父が生まれてから転居した先のすべての戸籍抄本を提出しないと銀行は口座情報を開示できないという。
5か所の役所を回って戸籍を揃えるので2か月ほどかかったのに、なかには残高が700円しかない口座もありました。父がもう少し、前もって準備してくれていたらよかったのですが……」
相続は時間との勝負だ。だからこそ、森永氏の時のように残された家族が時間を浪費することは避けたい。事前の準備がカギを握るのだ。別掲の表では「死ぬ前10年」と「死後の5年」について、「いつ」「誰が」「何を」準備しておくべきかをまとめた。
まずは相続財産がどこにどれだけあるかを洗い出す。夢相続代表で相続実務士の曽根惠子氏が指摘する。
「近年亡くなる人では、2002年にペイオフ(金融機関が破綻した場合に元金1000万円とその利息までしか保護されない制度)が騒がれた頃に預金を分散した人が多く、銀行口座が20行に分かれていたケースも実際にあります。相続人が1行ずつ回らないといけないので手間も時間もかかります」
そこで生前に預金口座を確認し、不要な口座を解約しておくといい。
相続人の確認に必要な戸籍謄本もその都度、揃えるのは大変なので、本人が亡くなった後の家族は、2017年に導入された「法定相続情報一覧図」の写しを入手するとよい。
銀行口座や保険、株や債券などの有価証券、そして不動産といった財産内容を整理・確認したら、それらをまとめて財産目録を作成する。相続税を計算してみて、家族で遺産の分け方を決めていく。そこで重要なのが「遺言書」だ。