田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国人気女優、脱税で50億円超の支払い命令 社会通念を逸脱する富裕層の世界

巨額脱税事件発覚の背景に男女の感情のもつれもあったか(鄭爽・Imaginechina/時事通信フォト)

巨額脱税事件発覚の背景に男女の感情のもつれもあったか(鄭爽・Imaginechina/時事通信フォト)

 ここで疑問に思うのが、30歳になったばかりの若い女優が単独で、自分の会社を10社(この内、5社は未登記)も作り、そこを巧みに使って脱税などできるだろうか、という点だ。そもそも、これほど巨額のギャランティを勝ち取るだけの交渉力があるのだろうか。想像される通り、背後には彼女をマネージメントした男性がいた。

 それが1990年2月16日生まれの張恒である。彼は中国の富裕層の家に生まれたイベントプロモーターだ。鄭爽と親密な関係となった張恒は2018年12月、鄭爽を主演とするテレビドラマ『倩女幽魂』の企画を立ち上げ、テレビ局、スポンサーへの売り込みに成功、ビジネス活動の結果として、莫大な額の契約を勝ち取った。

 中国の消費市場は巨大である。菓子、飲料、家電、自動車など様々な消費関連企業が人気ドラマのスポンサーになりたがる。

 テレビ局は中央クラス、地方クラスに分かれるが、後者は無数にある。インターネットテレビが主流なだけに、どこにいても、あらゆる地方番組を見ることができる。人気ドラマとなれば、その宣伝効果は大きい。有望なテレビドラマであれば、複数のテレビ局から契約を取ることができるし、放送され出した後からでも、契約を取ることができる。辣腕マネージャーが人気女優と組み、巨額の収入を得ること自体、何の違和感もない。

 ビジネス上おかしなところは見あたらず、税務当局から個人の所得などと指摘されるような取引とは到底思えない。特に、第三者割当増資まで所得としてとらえられるのは極めて異例の措置と言えるだろう。

2人の子供がいることが発覚し、風向きが変わった

 しかし、今回は特別な事情があった。2人は『倩女幽魂』で成功を収めた後、次に手掛けたドラマの制作を巡り仲違いした。これがきっかけで2人は別れることになった。

 問題はその後発生した。別れた直後の2019年11月、鄭爽は張恒に対して、貸付金2000万元(3億4000万円)の返済と利息分の支払いを求めて裁判を起こした。2020年11月に一審判決が出たが、それは全面的に鄭爽の言い分を認めるものであった。この判決を不服として、張恒は提訴したが2021年3月、二審でも一審を支持する判決となった。

 当初、世論は圧倒的に鄭爽を支持した。しかし、張恒が2021年1月、SNSを通して2人の間に子供がいることを暴露したことで、風向きは大きく変わった。1人は男の子で2019年12月19日生まれ、もう1人は女の子で2020年1月4日生まれである。別れる前の2019年1月、2人で渡米しているが、そのときに複数の代理出産契約を結び、子供を授かったという。しかし、彼らは中国では結婚すらしていない。また、別れた後、彼女は母親としての責任を完全に放棄している。ちなみに、子供2人とも現在は、既に海外に脱出しているそうだ。

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