処分したり、片づけたり、「やらなくては」と頭の中にはつねに浮かんでいながら、実行に移せないことは誰にでもある。大きな家に住み、高級品が身近にあるスターたちならばなおさらだ。女優の中村メイコ(87才)は、あえて大切な物から手放すことが、人生の最後を身軽に生きるコツだという。彼女の実体験から、ため込まない生き方を学びたい。
来年、米寿を迎える中村の著書『大事なものから捨てなさい メイコ流 笑って死ぬための33のヒント』が話題を呼んでいる。
2才のときに子役デビューして以来、映画やテレビ、舞台で活躍を続ける中村は、人生の終盤に差しかかる80代になって終活をスタートした。
まずは夫で作曲家の神津善行さん(89才)と住んでいた都内の一等地にある敷地300坪、地下1階、地上2階建ての大豪邸を手放して、娘たちの家に近い3LDKのマンションに引っ越した。
その際に彼女が思いきって処分したのは、高倉健さん(享年83、2014年逝去)と江利チエミさん(享年45、1982年逝去)夫妻の結婚式の写真、榎本健一さん(享年65、1970年逝去)からプレゼントされた「守り神」の人形、画家の東郷青児さん(享年80、1978年逝去)が描いた似顔絵、作家の吉行淳之介さん(享年70、1994年逝去)からもらったラブレターなど、著名人や大家から譲り受けた思い出の品々ばかりだった。
一般の人々は「そんなお宝を処分していいの?」と驚くかもしれないが、中村は、大切な「宝物」から捨てないと人生の最後を身軽に生きることはできないと説く。
超高齢社会を迎え、終活が誰にとっても無関係なものではなくなった。中村をはじめ、多くのスターたちが、「美しい最後」を迎えるために、ありとあらゆるものを手放している。そこには、死ぬまで笑って生きるためのヒントが隠されていた。
「いかにもお値段が高そうな古いものを、後生大事そうに身にまとうっていうのは、年寄りの冷や水みたいな感じで嫌かなって思います」(中村・以下同)
そうイタズラっぽく笑うのは、中村メイコその人。若い頃から買い物が大好きで「東京のイメルダ夫人」と呼ばれた彼女は、終活を始めるとともに大々的に身の回りの品の整理を進めた。冒頭で紹介した体育館のような大豪邸から引っ越した際は、処分した靴や衣類がトラック7台分になったほどだ。その後も粛々と不要品の処分を重ねている。
「長年、女優業をやっていると着物類がたまりますが、もう絶対に使わないだろうという着物や帯は、時々思いきって30枚くらい処分するんです。日本には『たんすの肥やし』という言葉があるけど、肥やしにするにしたって、たんすがちょっとかわいそうでしょ。だから『この重さに長年耐えてくれたんだね、ご苦労さまでした。軽くしてあげるからね』と声をかけて、ほとんど新品同様にきらびやかな着物や帯をエイヤッ!と持ち出し、もらってくださるかたがいれば、箱ごと差し上げています」