仲の良いきょうだいでも、親の遺産を巡って争いになることがある。とくに、きょうだいの1人が親の介護を担当し、実質“相続する財産を守ってきた”場合、等分では納得できないケースも出てくるようだ。遺言書がなくても、親の介護をした子供が多く遺産をもらうことはできるのだろうか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
先日、父が亡くなり、相続のことでもめています。母はすでに亡くなっており、相続人は私と妹と弟の3人です。父は生前、介護が必要だったため、3人で協力して面倒を見るはずでしたが、妹と弟はほとんど協力せず、私が仕事をやりくりして介護をしました。私は「介護した分、遺産を多くもらいたい」と主張しましたが、2人は「遺産は3等分で」と譲りません。遺言書などはありませんが、遺産を多くもらうことはできないのでしょうか。(大阪府・56才・女性)
【回答】
遺言書がない共同相続で相続人間で話がつかないときは、各相続人の法定相続分に従って遺産分割するのが原則です。しかし、相続人の一部が相続財産の維持形成に尽力した場合に法定相続分で分割すると、尽力が無視されることになり公正とは言えません。
そこで、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした相続人」には、寄与分が認められます。寄与分が認められると、相続財産から寄与分を控除した残りを相続財産とみなして分割します。寄与をした相続人は、分割で取得する財産に寄与分を加算した財産が取り分になります。
寄与分はまずは相続人間の協議で決定しますが、協議ができないときは、家庭裁判所が「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して」決定します。寄与分が認められる事情に「被相続人の療養看護」があります。ご質問の場合もこれに当たれば寄与分の主張ができます。
しかし、「財産の維持又は増加につながる特別の寄与」であることが必要ですから、親子の間で普通に見られる日常の世話程度では、「特別の寄与」とならず、寄与分は認められません。