つまり、1000億元(1兆7000億円)を支出するといっても、政府に1000億元(1兆7000億円)を寄付するわけではない。ましてや、制裁金のように半ば強制的にカネを支払わされるわけでもない。
ビジネスとして、“国家が需要を拡大したいところに十分供給を増やします”ということで、これは国家の支援を受けてビジネスを行うということだ。
共産党が共同富裕を推進する目的は、共産党が理想とする社会を創り出すためであり、経済成長の話ではない。それを上手くビジネスに転換しようとしているところにアリババ集団の高いビジネスセンスが感じられる。
テンセントも、美団も、主要なハイテク企業は同様な戦略を採るだろう。大雑把に言ってしまえば、農村部での需要拡大がテーマであり、それは決して収益率の高いビジネスではないだろう。当面は先行投資がかさみ、企業業績では売上は伸びても利益の伸びは鈍化するかもしれない。しかし、当局と同じ方向を向いて事業を行うことの安心感は大きい。今後、困難に直面すれば、当局からの支援が得られるだろう。事業リスクの低さは株価の評価に繋がる。
中国の経済体制は、市場経済重視から国家資本主義重視に変わっていきそうだが、民営企業は思いのほか柔軟に対応できそうだ。株価が一時的に下落した水準にある現在、アリババ集団、テンセントに限らず、中国ハイテク銘柄は再び上昇基調に入っていくのではないだろうか。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。