中国が1979年に導入した「一人っ子政策」を撤廃したのは2015年のこと。2021年5月末には、第3子まで容認する方針を発表しているが、少子化は一朝一夕に解決そうにない。そうした中で「寝そべり族」と呼ばれる若者たちが注目されるようになっている。いま中国社会で何が起こっているのか、経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。
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新型コロナウイルスの感染拡大以降、海外で予定されていた私の講演会はすべてキャンセルとなった。しかし、そんな中でも中国などからZoomによるオンライン講演依頼が舞い込んでくる。先日は中国の経営者団体の主催で「低欲望社会」をテーマに講演した。
拙著『低欲望社会』(小学館新書/2016年刊)は中国でも翻訳版が出版された。同書は2000年代半ばから日本の若者に「物欲・出世欲喪失」「ミニマムライフ」世代とも言うべき傾向があることを指摘・分析したもので、それがいま中国で話題になっているのだ。
中国では、これから日本以上に少子高齢化が進むと人口動態統計によって予想されている。2020年の合計特殊出生率は日本と同水準の1.3に落ち込んだ。急激な人口増加を抑えるため、1979年に夫婦1組につき1人しか子供をもうけることを認めない「一人っ子政策」を導入してから少子高齢化が進み、2016年に「二人っ子政策」に転換したが、それでも少子化に歯止めがかからず、今年5月末に「三人っ子政策」に緩和する方針を発表した。
しかし、いま20代後半から40歳ぐらいまでの中国人は「一人っ子政策」の影響で地域によっては男性よりも女性が10%以上少ないとされる。この男女比拡大による男性の結婚難と出生数の減少という問題は、いくら中国共産党が「産めよ、殖やせよ」と今さら号令をかけても、一朝一夕には解決されそうにない。
その状況下で注目されているのが「寝そべり(タン平、タンピン、タンは身へんに尚)族」と呼ばれる若者の増加だ。彼らは日本の「物欲・出世欲喪失」「ミニマムライフ」世代と同様に消費意欲が低い草食系で、住宅も車も買わず、結婚も出産もあきらめ、労働時間を減らして質素にのんびり暮らしたいと考えているという。まさに中国でも「低欲望社会」が到来しつつあるのだ。
中国は、改革開放政策に基づいた市場経済への移行による高度成長の中で、都市圏の多くの国民がバブルを謳歌してきた。たとえば、私が大連で経営していた会社では、給料が毎年上がって(政府に上げさせられて)あっという間に10倍になった。大半の社員がマンションを購入し、その物件が値上がりしたら、それを担保に借金して次のマンションを購入するのが当たり前だった。
今や中国で複数のマンションを持っている人は珍しくなく、多い場合は10戸くらい所有している。彼らは株取引でもアグレッシブにリスクを取って大儲けを狙う。つまり、中国は世界で最も赤裸々な資本主義社会であり、膨大な数の人々が他の国では類を見ないリスクテーカーなのだ。