60歳以降に「家計防衛」の基礎となる公的年金──。夫か妻のどちらかが先に亡くなって「ひとり」になった後も、長い人生が待っているかもしれない。だからこそ「夫・妻が亡くなった後の年金の手続き」についても知っておきたい。
まず、忘れてはいけないのが未支給年金だ。社会保険労務士の黒田英雄氏が解説する。
「年金は偶数月の15日に前月と前々月分の2か月分が振り込まれますが、原則として故人が亡くなった日の月の分まで受け取れます。たとえば8月15日に6、7月分が支給された直後に受給者が亡くなると、10月の振り込みは停止され、8月分が受け取れません。遺族が未支給年金を請求する必要があります。
また、年金受給開始を65歳よりも遅らせることで毎月の年金額を増やす『繰り下げ受給』を選んだ人が、繰り下げ中に亡くなった場合も、65歳から亡くなった月までの年金を遺族が請求できます。ただし、繰り下げをしたことによる増額分は受け取れません」
未支給年金を請求する場合、年金事務所などで「未支給年金請求書」と「年金受給権者死亡届」を提出する。死亡届の提出期限は国民年金が14日以内、厚生年金が10日以内なので遅れないように注意したい。
その後、「ひとりの年金」は、もともと夫婦の受け取っていた年金、夫と妻のどちらが先に亡くなったかなどによって変わる。ここでは、一般的な会社員と専業主婦の組み合わせについて見ていく。
「遺族厚生年金」に加えて受け取れる年金も
【元会社員の夫+専業主婦の妻のケース】(夫婦ともに65歳以上)
●夫が先に亡くなった場合
妻は自分の老齢基礎年金に加えて、遺族厚生年金(額は夫の厚生年金の4分の3)、そして振替加算と経過的寡婦加算を受け取れる。振替加算は65歳以上の専業主婦などがもらえる年金で、夫の死後も終身で受け取れる。
「経過的寡婦加算は、遺族厚生年金を受給する65歳以上の妻に加算されるもの。受給額は生年月日によって設定され、月約1600円から5万円弱となります」(黒田氏)
なお経過的寡婦加算を受け取れるのは、1956年4月1日以前に生まれた妻に限られる。
夫の死後に遺族厚生年金を請求する際は、夫と妻の年金手帳、夫の年金証書、夫婦の戸籍謄本などの必要書類を揃えて、年金事務所や市区町村役場の年金相談センターなどで手続きをする。
遺族厚生年金の請求には時効があり、死亡した日から5年以内に請求しないと1円ももらえない。