子供が中学受験をするにあたり、親にとって負担となるのが入学までにかかる教育費だ。株式会社ファルボが2020年10月に発表した調査によると、私立中学に通う家庭の7割は世帯年収800万円以上。その年収帯の家庭では、学習塾費用だけで小学4年から6年生の合計で約279万円を費やしているという。これだけ高額の「投資」となるだけに、子供についつい「成果」を求めてしまう親もいるだろう。だが、誰もが費用に見合った成果をあげられるわけではない。現役塾講師と中学受験経験者が、その実情を明かす。
先生に「おねだり」する生徒の家庭の“事情”
首都圏で、小規模な塾を経営するベテラン講師の50代男性・Sさん。「うちはお金がないから、先生のテキストコピーして」といつも職員室に頼みに来ていたAさん(当時小6)のことを振り返る。
「その子は、コピーの時だけでなく、先生に『○○買ってよ~』とキャラクターグッズや文房具などをよくおねだりしていました。また先生の横をすり抜けるように職員室のなかにズカズカ入ってきて、冷蔵庫を勝手に開け、中のものをねだったりしていました」
許可なく職員室に入ることについては、当然ながら厳重に注意したSさん。Aさんの家は親がいつも立派な車で迎えに来ており、それなりに裕福な家庭だと想像できたため、彼女の言動には違和感を覚え、注意して見ていた。ある時、Sさんは何気ない雑談から、Aさんが親に言われている言葉を知った。
「Aちゃんは、母親から常に『あんたの塾にいくらかけてると思ってるの?』と言われていたようでした。『ちゃんと勉強して、合格してくれないとお金がもったいない』『あんたの塾代でうちにはお金がないから、○○は我慢』と言われたこともあったそうです。
子供にしてみたら、プレッシャーでしかないでしょう。もちろん、『お金をかけてくれてる』と思って勉強する子がいないわけではないと思いますが、Aさんの場合、『うちにはお金がない』ということを真に受けているというよりは、親が勉強以外で相手にしてくれないから、先生たちに甘えているのかなと腑に落ちたんです。というのも、テキストを購入してもらう時は親御さんに話をするので、Aさんが持っていないはずはないんですよね。コピーだなんだと、先生に構ってほしかったのだろうと思います。
たとえ、子供自身が塾に行きたいと言い出した場合でも、金銭面を判断して行かせているのは親。子供にお金をかけていることを、本人に言うのはあまり意味がないと思いますし、時には逆効果になる。そのことを忘れてはいけないと思います」(Sさん)