親が塾にクレーム、子供は意外にも冷静で…
またSさんは、印象深い生徒として、Bくん(当時小5)の例も挙げた。親が「学校では勉強しないから」と困って、Sさんの塾にやってきたのがBくんだった。親の意向は、学校の勉強の補習と、できれば中学から大学までエスカレーターで行けるような私立に入れたいということだった。
Sさんは個別指導に近い形で根気よく勉強を教え、数か月経ったある日のことだった。
「お母様から『塾に通わせているのに、成績が上がらない。これではお金の無駄。私たちの出費をどう考えているのか』と電話がかかってきたんです。よりしっかり指導することや、復習も大切であること、結果が出るまでには時間もかかることなどをお伝えし、金銭面については謝り倒すしかありませんでした」(Sさん)
母親のあまりの剣幕に、Sさんは「うちに納得がいかないのなら、他所に行かれたほうが……」と喉元まで出かかったそうだ。しかし次の日、Bくんは涼しい顔で、「昨日うちの親が電話かけてきたでしょ? ごめんねー。『成績上がらないのは、遺伝子のせいだろ』って言ってやっていいよ(笑)」とSさんに言ったという。
「確かにBくんは、授業中に『へー』としか言わずに先生を困らせたり、『うちの親は絶対俺に手をあげない。だってそんなことしたら“虐待だ!”って訴えてやるもん』とうそぶいたり、言葉達者というか、少し斜に構える部分がある子でした。お母様のお話を聞いていると、まるで息子さんのことを理解しようとしていないし、うまくいかないことは他人のせいにする傾向があるようで、Bくんはそんな親の本質を見抜いていたのかもしれません。
どの子にも言えることですが、やっぱり子供は親の背中を見ているものなんです。逆に言えば、子供の言動にちょっと『ん?』という部分がある子の親は、子供にきちんと向き合ってないな、という印象は共通しています」(Sさん)
中学受験経験者が大人になって思うこと
自身も中学受験時に親から「お金」のことを言われたという30代男性・Cさん。第1志望だった中学に落ちた時、父親から「塾代がなかったら、高級車が買えたな……」とボソッと言われたことが忘れられない。
「母親からは『あなたの将来のためにお金をかけているの。わかってるの?』と何度も言われ、『なんで上のクラスに行けないわけ?』とネチネチ言われたものです。日常だったのでもはやスルーしていましたが、さすがに不合格の時の父親の言葉はグサッときました。知らねえよ、という思いがいちばんでしたけど(笑)」(Cさん)