2021年9月1日に発足した「デジタル庁」。これによって国や地方行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)は着実に進んでいくのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏が、デジタル庁が抱える問題点について指摘する。
* * *
岸田文雄首相が誕生し、新政権が船出した。今後は、新型コロナウイルス対策でも露呈した旧態依然の“アナログ脳”政策を脱し、ITを駆使したデジタル改革が急務となっている。
その司令塔が9月に発足したデジタル庁だが、初代デジタル相の平井卓也氏は(岸田派であるにもかかわらず)わずか1か月でお払い箱になった。代わって就任した牧島かれん氏は、デジタル政策に精通しているという触れ込みだが、経歴を見る限り門外漢であり、改革のリーダーとしては全く期待できない。そもそも「庁」とは何事か? デジタル改革を完全になめている。
デジタル庁は人事がお粗末極まりない。IT企業の経営者に知り合いが多いという平井氏が初代デジタル相に就任したが、不適切発言やNTT幹部との会食が発覚した挙げ句、新内閣発足に伴い退任した。
事務方ナンバー2(事実上の実務トップ)の赤石浩一デジタル審議官も、内閣官房イノベーション総括官だった昨年9月から12月にかけて3回にわたりNTTから飲食代など計約12万円の過剰接待を受けていたとして懲戒処分になった。平井氏も2回の接待に同席していたとされ、さらに新デジタル相の牧島氏もNTTから高額接待を2回受けていたと報じられた。3人は同じ穴のムジナなのだ。
また、事務方トップのデジタル監に就任した一橋大学名誉教授の石倉洋子氏は不適格だ。当初の候補にはMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの元所長・伊藤穣一氏が浮上したが、資金提供をめぐる問題で起用が見送られ、石倉氏に白羽の矢が立ったという経緯がある。
業者丸投げだと“みずほ銀行状態”に
スリートップ以外の人事もひどい。初日から600人体制で、うち350人は官僚だという(『週刊ダイヤモンド』9月11日号)。その出身省庁の内訳は総務省100人、経済産業省20人、あとは財務省、厚生労働省、国土交通省、警察庁、防衛省、人事院などである。
だが、350人もの官僚はいったいどんな仕事をしているのか? デジタル改革の手始めは新しいシステムを設計して的確に発注できる優秀な人材がほんの数人いれば事足りる。にもかかわらず畑違いの官僚が山ほどいる理由は、出身省庁の権益を確保するために送り込まれたと考えられる。