しかも、デジタル庁の幹部名簿を見ると「併任」だらけである。つまり、みんな“腰かけ仕事”なのだ。これでは「船頭多くして船山に登る」のがオチである。
そもそも日本の役所や企業のデジタル化がうまくいかない原因は、発注側の提案能力不足である。どういうシステムを作りたいのかが明確でなく、ITゼネコンに丸投げしているから、ITゼネコンの言いなりになってしまうのだ。
象徴的な例は、システム障害が頻発しているみずほ銀行だ。合併した第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の三つのシステムを無理矢理一つにしたが、各行のシステムにそれぞれ昔のITベンダーがしがみついていて、発注側も古巣時代から付き合いのある業者に任せている。だからいつまでたっても一つのシステムとしてうまく機能せず、トラブルが絶えないのだ。
前述したように、役所のシステムも省庁別・自治体別の縦割り縄のれんになっている。最初に一つのシステムを作ってそれを応用すれば、次から初期コストはかからず、オペレーションコストだけで済むはずなのに、個々の省庁・自治体に人口比例で別々の予算を提示すると、それが通ってしまう。その結果、省庁ごと自治体ごとにITベンダーや方式が違うから後で統合できないし、つなぎ合わせたとしても、みずほ銀行状態になるだけである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『稼ぎ続ける力「定年消滅」時代の新しい仕事論』等、著書多数。
※週刊ポスト2021年10月29日号