そこでブクブクになった水死体を運ぶ時、ストレッチャーが傾いて遺体がワシのほうに滑り落ちてきたんや。身を挺して止めたものの、遺体の腐敗汁がワシの全身にドバーッと降りかかり、刑事デビューに備えて新調したスーツが台無しになってもうた。
新米刑事として車上荒らしの容疑者を尾行した時は、この男が泥棒のカンで急に振り向いたので、「見つかったらヤバイ」と咄嗟に道路わきの畑に身を伏せた。再び尾行を再開すると、ぷ~んと変な臭いが……。ダイブした畑に犬の糞があって、背広の胸一面がウンチまみれになっとったんや。
『太陽にほえろ!』のカッコいい刑事を想像していたワシは理想と現実の差に面食らったが、刑事をやめようと思ったことはない。泥棒を怖がるワシを救った刑事さんのように、困っている人を助けたいとの思いは揺るがなかったんや。
これから年末にかけて侵入窃盗が増えるはずだから、みなさんも十分に気をつけてや。ほなっ、また!
【プロフィール】
秋山博康(あきやま・ひろやす)/1960年7月、徳島県生まれ。1979年、徳島県警察採用。交番勤務、機動隊を経て刑事畑を歩む。県警本部長賞、警視総監賞ほか受賞多数。退職後は犯罪コメンテーターとして活動。YouTube「リーゼント刑事・秋山博康チャンネル」が話題。
※週刊ポスト2021年11月5日号