それでも結婚って不思議なもので、いったん歯車が回り始めると、もう誰にも止められない。たとえば婚約中のふたりが抜き差しならない大げんかをして、「ああ、もうダメだね」と破談の方向に一歩進む。するとその直後に、「結婚指輪、私たちからプレゼントさせてください」なんて親戚が現れるのよ。
もっと抜き差しならなくさせるのが、周囲の反対ね。ふたりが「やっぱりこの人と人生を共にできません」と白旗を掲げようとしたそのタイミングで「あんな親がいる女(男)と結婚させるわけにはいかない」なんて、横からチャチャを入れられると、「えっ、いま何て言った?」となる。離婚した人に聞くと、婚約中、引き返すとしたらあのときだったなというターニングポイントが必ずある。
なかには私のように、「絶対無理、離婚確実」と確信を持っている花嫁もいて、それでも結婚したのはなぜか。結婚して鼻を明かしたい人がいるからよ。強いて言えば、これまでの人生の“仕返し結婚”。
私の場合、仕返ししたかった人のナンバーワンは、「中卒で働け」と15才で私を家から出した義父と、高3のときに「大学に行きたい」と言ったら、「ここだけの話にしておけ」と義父に話すことすら封じた母親だね。
そのふたりに「私は大卒の男と結婚して、おほほ、仲人は○○大学の教授なんだけど、文句ある?」と言いたかった。以上、それだけ。ほんと、いま思えばハタ迷惑な話だけど、結婚までの数々の難関を私にしてはがまん強く乗り越えられたのは、このドス黒い欲望があったからよ。
あと、手ひどい振り方をした男に「アッカンべ~。私、大企業勤務の男と結婚するから、二度と私の前に現れないでね~」とも言いたかった。たかだか24才だったけど、いろんな“負け”が込んでいて、それを結婚で吹き飛ばそうとしたわけ。で、それだけの威力はあったと、それはいまでも思うね。